第2話

報告書の提出の同時に参謀次官殿からの指令書が手渡された。

正式な小隊として運用するのに必要な人材を用意しろ

だいたいこんな意味だろう人事局にも話はすでに通っていると考えるのが妥当だ。



しかしだが、ぶっちゃけ選考は既に終了していると言っていい。

当然ながら私という特異戦力を運用するのに機動力は必須。追加で機密保持の関連であまり既存の軍人を使いたくは無い。


で、だ


孤児から魔導適正の高い幼女をピックアップ

軽く洗脳おはなしして軍に志願させた。

ちょうど配属を考えている頃なのでは無いだろうか?


この書面を見る限りどうやら私はやり過ぎたらしい。

ライン戦線に当たっていた共和国軍の実に三分の一を文字通り消滅させていた。そして、全く何のミスをしたのか大陸軍は既に反転。西方に向かってきているらしい。

無能め、そのまま北方にいれば数で冬前に協商連合を壊滅させることすら可能だっただろうに。



1週間後

帝都、軍司令部ミーティングルームの1つ

中央に戻った私は目を付けていた4名を呼び出す。



「マリー・プライス魔導中尉以下3名着任しました」


「ご苦労。以下3名も名前を」


「エミリー・ドッペルバウワーであります」


「レナ・アーベル」


「エマ・アーベルです」


横一列に並んだ少女たちを順に見る。


「うむ、諸君には私が隊長を務める【特別編成魔導小隊】に所属してもらう。ここまでは事前に承知しているな?」


全員が無言で肯定する。


「この【特別編成魔導小隊】は参謀本部直轄。さらに言えば参謀次官殿直轄の独立部隊となる。必要な時、必要に応じて即時展開対応する部隊だ。小隊ならではの機動力を生かした部隊だな。何か疑問はあるかね?」




「無いならば早速だが訓練に移ろう。何、簡単だ。ちょっと地獄までピクニックに行くだけさ」






【少女たち地獄巡りなう】


精神と肉体を限界まで追い詰めるのは当たり前。少しでも気を抜いた瞬間、特佐のデコイから魔力弾が飛んでくる。そんな環境で1ヶ月も訓練すれば馬鹿だって一端の兵士に生まれ変わる。夜間ですら山そのものを吹き飛ばすような特佐の爆撃術式が飛んでくる。

砲撃隊の的にされたのが楽な部類だった。と言えば凄まじさは伝わるだろうか?


特にやらかした訓練といえばあれだろう

高度20000からの奇襲訓練。

上昇する時は性能の問題だからと特佐が運んでくれた。酸素補給術式、耐圧術式、防寒術式を並列起動。滞空している間は比較的酸素補給術式は楽だった。


高速降下を開始すれば今までの術式に追加で空気抵抗を減らす術式が追加され計4つの術式を並列起動しなければならなかった。


さらに支給された試作型八式魔導銃『エクシード』超長距離射撃を前提とした装備で最大速度で目標施設を破壊できなければ、今までの過程をやり直し。まさか本当にやられるとは思わなかった。






満足満足、大いに満足である。


さすがに私が指揮するデコイの大隊と戦わせたときは目が死んでいたが、まあいい。

九十六式改と名付けた懐中時計型の魔導宝珠もプレゼントした。これで装備は十分だろう。

私が持つ限りの現代の戦闘技術を叩き込んだ部隊が完成した。いや、本当にこれは喜ばしい!きっと私の頭で無敵のアホ毛がピョコピョコしていることだろう。

自分で育てといて何だが最後の方、小隊で大隊規模のデコイを殲滅するとは。



「さて、諸君。あまり公にはできない情報源から公国が戦争の準備をしていると情報が入った。初任務は公国軍の殲滅になる。おそらくではあるがこの任務は例の【第二○三航空魔導大隊】との合同任務となるだろう」


「本日一二○○に本基地を出立。翌、○六○○には現地入りする。いいな」


「「「「ヤー!」」」」




まあ、特筆することのない空の旅行については無視だ。

星を見ながらの高速移動は楽しかったとだけ言っておく。



統一暦1924年9月24日



「おい、もう一度確認するが敵の航空戦力が存在しないというのは本当なんだな?」


「はい、公国軍三個師団が越境。進軍してきます」


まじか、と隣にいたターニャ・デグレチャフ少佐を見る。目を見合わせて満面の笑みを浮かべた私は悪くない。どうやら少佐もこちらの意図を理解できているらしい。

レルゲン中佐が頭を抱えそうなのが面白くて仕方ない。ここが司令部じゃなかったらターニャと御手手を繋いで踊り出したいくらいだ。


「ターニャ・デグレチャフ少佐、越境してきた三個師団は任せても?」


「ええ、もちろんですとも。三個師団程度蹴散らしてご覧に入れましょう」


両名ともにさも当然と言った風に会話をする


「正気かアーデルハイド特佐。敵は三個師団も有るのだぞ」


まぁこれが航空戦力を有する共和国の三個師団だったならば恥や外聞をかなぐり捨てて他の方面軍に援軍を請うのもやぶさかでは無い。だが公国軍は合計で60万に届く軍勢と言えども航空戦力を持たない。


全く、今更航空戦力の欠如した軍隊とはまるで博物館行きの骨董品のようなものだ。

三個師団?ただの暴徒によるデモ隊か何かにしか見えないぞ。

まさか、戦争する前に口上でも言い合うとか考えてないよな?

ああ〜腹筋が痛い。


全くレルゲン中佐もレルゲン中佐だ。未だに二次元の戦争に囚われているとは、優秀な人間だけにもったいない。いつまで重力の檻に囚われているつもりだ。

嘆かわしい

前線を離れ過ぎたなレルゲン中佐。


「少佐、貴官は第二○三航空魔導大隊を率いて、公国軍の先鋒部隊に戦争というものを教えてやれ。教育料は利息付きでたっぷりとな」


「了解しました」

と敬礼しているデグレチャフ少佐へニヤリと笑ってみせる。分かっているな?と

そのまま少佐は秘書官を連れて出て行った。


「では、本官はこれで」






「さて、全員揃っているな?」


「はい、隊員4名全員揃っております」


「楽にしろ、では今回の公国軍の越境に対する攻撃について話す。まず敵の航空戦力は存在しない。対空兵装が有るかすら怪しい」


は?と呆けた顔をされても困る。


「恐れながら、確認いたしますがそれは事実なのですか?」

恐らくは隊員全員の総意としてマリー・プライス副隊長が質問してくる。


「構わない。私も自分の耳を疑ったよ。一度メディカルチェックを受けようかと本気で考えた」


だが、事実だ


「さて、作戦だが。まずターニャ・デグレチャフ少佐が公国から発生した的に対して実弾演習。我々は高度10000を維持したまま敵後方に回り込み、本隊を上空から砲撃。このとき敵本部が発見できればそこで制圧」


何か質問は?

特に挙手する者はいない。

総数60万の公国軍だ。本来ならば特攻とみられても仕方のない作戦である。航空戦力の効率運用など現代知識を盛大に詰め込んだ彼女らにはしっかりとこの作戦が意味のあるものだとわかっているはずだろう。

それに高度10000からの砲撃はたとえ空戦部隊がいようとも有効な策だ。6000が通常の航空魔導師の限界高度なのだ。敵にも第二○三航空魔導大隊並みの装備と練度の部隊がいれば別かもしれないが。


「よろしい、ならば出撃用意だ。B装備でな」






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