祝福された狂気

腐りかけ@

第1話

統一暦1923年6月


「おい、生きているな?」

腕の中にいる自分より更に幼い幼女に話しかける。どうやら意識はないらしい。


『本部、こちらラビット01。フェアリー08を回収した。オーバー』

『こちら本部ラビット01はフェアリー08を連れて本部に帰投してください。オーバー』

『了解』


腕の中の眠り姫に負担をかけぬように速度を上げていく。しかし、自爆とは死なぬと分かっていても思い切ったものだ。

全くこんなに可愛らしい見た目をしておいて中身は捻くれた元サラリーマンとは一体何の間違いなのだ?

心からそう考えずにはいられない。

全く神様ってヤツは意外とユーモアがあるのかもしれない。




さて、諸君私の名前はアナスタシア・アーデルハイドという。愛称はアナだ。齢は12

まさに神のみぞ知る運命によって私が生きていた世界では創作物でしかなかった『幼女戦記』という名前を裏切ってガチ戦記物の世界に生まれ直した。


まったく我のことながら数奇な事である。

極めて一般的な高校男子だった私は『神』を心からとは言えないが信じてはいた。

これが主人公たるターニャ・デグレチャフに成った男との最も大きな違いであろう。


彼?彼女?が信仰心を失った者に信仰心を取り戻させるモデルケースとするならば、私はさしずめ宣教師とでも言えばいいのだろうか。

『神の奇蹟』の具現者として存在することによる間接的は信仰のモデルケースそれが私なのかもしれない。

わかりやすく神の存在を示す者なのだろう。

多分きっと

私は『思う存分盛大に能力ちからを振るえ』としか言われていない。


まったく魔導適正EX 要するには測定不能とはとんでもない才能を神様ってヤツは授けてくれたもんである。

お陰でひもじい孤児院を脱出し軍の訓練学校に入れたことには大いに感謝しよう。帝国が男女平等の実力至上主義だったのは喜ばしいことだ。

だがしかしだよ。所属が【参謀本部直轄 特別編成魔導小隊】ってなに?

あれか?卒業論文で書いた『航空魔導師による即応部隊』が悪かったのか?

つうか小隊と銘打っておきながら所属私1人ってなにさ!ボッチ確定じゃねぇーか!


まぁいい、最初から階級は大尉だったし物資は申請すれば中隊規模で受け取れる。

実力至上主義万歳!


とりあえずターニャを基地に届け


「アーデルハイド大尉助かった。援護感謝する」

「任務ですから。それに未来のエースを死なせる訳には生きません」

「あぁ、そうだな。彼女に銀翼突撃勲章が授与される予定だ」

「大盤振る舞いですね、では私はこれで」

次は西方戦線ですそう言って敬礼とともに私は北方方面軍の拠点を出て行った。






西部方面軍ライン戦線






共和国は現代で言うフランスにあたる場所に存在する国家である。

これが北進を開始。現在ライン川周辺地域で混戦状態の泥沼に陥っている。

帝国側は内線戦略がうまく機能せず共和国側に決定的な打撃を与えるに至らず、恐らくは共和国側は帝国の粘り強さを予想できていなかった。結果現在泥沼の様相を呈している。


そこに一種の起爆剤としてわたしが投入されるのだろう。

間違いなく泥沼だけは除去する力がわたしにはある。


最上は敵軍の殲滅だろうがこちら側が有利な膠着状態で文句は言われないだろう。

開発局からパクってきた試作品ガラクタの改造品を試すにはちょうど良い。


しかし、この試作魔導宝珠幾ら何でも時代に対して早すぎやしないだろうか?

神様に貰った知識を使っても一瞬困るってどう言うことなのだ


まぁいい

戦場を見下ろす高台に立つ。傍らには10.5cm重野砲。

込められた弾の魔力臨界点は近い。

胸元にかけられた懐中時計の針は狂ったように回っていることだろう。


「遠距離索敵術式により敵軍の歩兵部隊を補足。距離13000。コンタクトまで1000。射角調整完了。戦術級術式の使用を申請。オーバー」


「こちら本部、戦域における友軍の撤退を確認。戦術級術式使用を承認。オーバー」


「ヤー、戦術級術式解凍。射出用術式『トライデント』起動」


野砲から発射される弾を加速し、空気抵抗と自壊から守る術式が起動する。


「魔力臨界点突破」


余剰魔力が吹き荒れる。まるで砲身が赤熱したように紅く輝く。

ああ、一体これで何人の人間が死ぬのだろう。何百か、いや何千かどっちにしても人が死ぬ。最高だ。魂が震える。この時を待ち望んでいたと歓喜に震える。口がどうしても緩んでしまう。



『主よ、我らが神よ。今我に我らが敵を討ち亡ぼす矛を授けよ。契約のもとアナスタシア・アーデルハイドが奉る。終焉の笛を響かせよ』




『終われ〈終焉の福音ラグナロク〉』







かくして、少女あくまの嗤いとともに神の鉄槌は放たれた。



ドーム状に広がる爆炎がここからも見える。


フフ


フフフ


アハッ


アハッハッハッハハハハハ!!


実に素晴らしい。あれが命を燃やした炎かと考えると実に綺麗だと思える。最高で最高だ。


おおっと、こうもしていられない

こみ上げる歓喜を一時的にねじ伏せ極めて冷静そうな口調を装う。


「本部、こちらシューター01。戦術級術式の正常な起動を確認。強力な閃光と爆煙のせいで戦果のほどは確認できない。オーバー」


「了解しました。シューター01はこちらに帰投してください。その後の指示はまた後ほど。オーバー」


「ウィルコ。シューター01帰投する」


いや、本当に最高だ

人を殺すとき初めて生きてるって感じがする。地獄に落ちるのは確実だろうが落ちるなら落ちれるとこまで落ちてやる。

こちとら神様公認の大量破壊兵器だ。

それが畏怖の感情であろうと信仰ならなんでもいいのだろう。


野砲はこのままでいいので小銃を肩にかけ直してから空へ舞い上がる。

両足に飛行ユニットを装備しているのは私くらいなものだろう。脚部のパーツは足の裏にスラスターがあった従来とは違いふくらはぎを覆うようにスラスターが付いている。


間違いなく速いが魔力消費が馬鹿にならない。通常の魔導士官ならば10分と保たず墜落する。

しかも体にかかるGの関係で最高速度を出す際は全リソースをもって耐圧術式を使わないとブラックアウトは必然という欠陥品である。



拠点に着き、最低限の報告の後与えられている天幕に入る。机には様々な金属部品が散乱していた。銃は今までの小銃でも十分ではあるのだが、どうにも空中で使うのに取り回しが悪い。装弾数が10発というのもいただけない。正直魔力を乗せて撃つのだから態々この銃身の長い銃を使う必要は無い。

今作っているのはFNP90をモデルとした魔導小銃の試作品だ。同時進行で長距離狙撃用の魔導銃も開発はしている。


私がライン戦線を守っている限りは大陸軍は協商連合に専念できるはずだ。


私が目立ち私が適度に出撃して存在感を示し続ける限りこの戦線は共和国側が本腰を入れでもしない限りは保つ。

大事なのは大部隊で進行を始めたらまたあの砲撃が飛んでくるかもしれないという恐怖感だ。


その日の夜は戦術級術式の評価や使用の所感などをまとめた書類を作ったあと眠りについた。





さて、くそったれな戦争ゲームの幕は上がった。


その少女あくまがもたらすのは帝国の栄光か破滅か








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