第24話 暴漢

 いつもならとっくに帰れる時間なのに、今日は珍しく職員会議が開かれるとはどうしたのだ?

 ここの先生達は年寄り連中が多いせいか、職員会議はだいたい朝と決まっていた。

 それが今日の昼、急に夕方に職員会議を開くとの通達が入る。

 20時にはほとんど寝てしまうような奴等なのに大丈夫なのか?

 会議室に入ると、ノンビリとした顔がトレードマークの校長先生が険しい顔をして座っている。

 こんな顔つきは、勤めて初めて見た。

「全員集まりましたな」

 3年の学年主任の先生が仕切る中、会議は始まった。

 話の内容は、ここ最近我が高の生徒達が襲われる被害が相次いでいるとの事。

 追い掛け回すだけ追い掛け回し恐怖心を煽ってくるらしいのだが、その相手は時には1人だったり数人だったり、まちまちらしい。

 ただそのどれもが未遂に終わっているので、今のうちに食い止めたいとの事だった。

 襲われる頻度は日増しに増えているらしい。

なんとも妙な事件だ。

 襲うやつの意図が見えてこない。

 そういえば、サキュバスのヤツが変質者どうこうってこのあいだ言っていたな。

 これの事だったのか?

 チラとサキュバスの顔を見ると、分っているのかいないのかニッコリと微笑む。

 相変わらず、何を考えているのか喰えんヤツだ。


 職員会議が終わると、学校の周辺を探る為に姿を消して屋上に行った。

 ここからなら周辺が良く見えるし、姿を消すことで私の気配も消せる。

 私は押し殺すように、ジッと耳を研ぎ澄ませ屋上に佇んでいた。

 数十分もしないうちに、校舎の外の南の方角から叫び声が聞こえてくる。

 同時に嫌な気配までもが感じられた。

 声の方向に瞬時に駆けつける。

 だがその瞬間、すれ違うように嫌な気配は消えていた。

 そこには泣き叫んで疲れ果てていた生徒がぐったりと座り込んでいる。

「大丈夫か?」

 知った私の顔を見ると、安心したのかまた泣きじゃくり始めた。

 可哀想に、そうとう怖かったのだろう。

 私を掴むその手は、微かに震えていた。

 そっと生徒の頭に手を置き、さっきまでの恐怖心の記憶を取り去る。

 そして眠らせ、家に送り届けた。

 これで明日起きる頃にはすべてを忘れ、いつもの日常に戻れるだろう。

 しかし、私の気配を察知しすれ違いざまに消える事ができるなんて。

 同じ悪魔としか考えられない。

 どいつだ?

 すぐにサキュバスの事が頭に浮かんだ。

 あいつは加担をしているのだろうか?

 まさか、私相手にここまでバカな事をするヤツではないだろう。

 しかし、確かめる必要はあるな。

 すぐさま私はサキュバスの元を訪れた。


「いらっしゃい」

 サキュバスの根城にしている保健室へ入ると、のんきにサキュバスはコーヒーを淹れていた。

 こいつは結界を張りここに住んでいるのだ。

「そろそろ来る頃だと思っていたわ」

「という事は、私が訪ねてくる理由は分っているようだな」

「そりゃあ、同じ会議に出ていたじゃない」

「ふざけるな。この件悪魔達が関係しているな?」

「そのようね」

「お前は加担しているのか?」

 肝心な事を尋ねる。

 答えによっては容赦しない。

 さっきの生徒の少女がエルだったらと思うだけで、怒りがフツフツと沸いてくる。

「その怖い殺気やめてくれない?」

 とても冷たい眼差しが私に挑んでいるようだった。

 この態度は敵なのか?

 それとも潔白なのか?

「答えろ」

「安心して、私は関係ないわ」

「その言葉に偽りはないな?」

「ええ」

 肩をすくめるとあっさりとサキュバスは答えた。

 さっきまで私に挑んでいた目をしていたヤツとは思えない。

「あなたにケンカ売るほどバカじゃない」

「そう願いたいな」

 本心からそう言った。

 こいつがどうこうできるとは思ってはいないが、煩わしいのはなるべくごめんだからな。

「この件に何か情報はあるか?」

「さあ? 名もないような低級悪魔が少女狩りをしているだけじゃないの? 悪魔は処女がお好きだから」

 ふふっと厭らしい笑みを浮かべる。

「そうだとしても私の周辺で行動を起こすのなら、見つけ次第八つ裂きにしてやる」

「変わったわね。あなたも余興だと思って楽しめばいいじゃない、少女の阿鼻叫喚は私にさえゾクゾクするご馳走よ。それを一緒に眺めて楽しめばいいのに」

「お前は生徒が可愛くないのか? 私には楽しめる自信がない」

「ふぅん。やっぱり堕・・・」

 サキュバスが言葉を言い掛けた瞬間に、私の長いツメはサキュバスの喉元に突きつけられた。

 背中からは身体を覆うほどの黒い大きな羽が飛び出している。

「それ以上続けるのであれば、ここが学校であろうとなかろうとその首を掻っ切る」

「ごめんなさい」

 か細い声で答えるサキュバスの白い首筋には、赤い血が滴っていた。

「少し切ってしまったようだな。久々の変身で手元が狂ったらしい、次はないと思え」

「はい」

 サキュバスは仰々しく跪く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る