第18話 尾行

 おかしい。

 最近エルの気配が途切れる事が多くなった。

 どうも放課後に途切れる可能性が高い。

 これは何かある。

 しかしマレも気になるし・・・。

 最近周りが不穏だ。

 非常に不愉快だ。

 周りがどうなろうが構いはしないが、それが私の知らないところでと言うのが不愉快気まわりないのだ。

 これは明らかに何かの悪意を感じる。

 エルだけでなく、マレの気配も時々消える。

 特にその女と会っているという昼時に。

 昼時はエルと一緒に過ごす決まりなのでマレの事は後回しにしていたが、家の隣の公園だと場所は聞いているからいつでも行けるとタカをくくっていすぎたか。

 そろそろ本気で確認しに行かねば。

 お昼なのでエルと一緒に昼食を取る為に意識を探る。

 最近は逃げ回る事もなく食堂にいる事が多い。

 案の定、今日もエルは食堂にいた。

 日替わり定食を買い、エルの座っているテーブルに行く。

 エルも同じく日替わり定食を食べていた。

「今日はお揃いだな」

「たまには定食もいいかなと思って」

 エルは麺類が好きらしく、食堂ではほぼ麺類を食べている事が多い。

 特にラーメンは大好きらしく、最低でも週に1度は食べていた。

 今日の定食はピーマンの肉詰めと小鉢に温泉たまごとひじきの煮物が付いていた。

 ここだけの話、私はこの温泉たまごがお気に入りだ。

 トロッとした濃厚な黄身がご飯にまとわりついた様がとても美しい。

 そこにしょうゆをチョロッと垂らしてかきまぜて、口の中にかきこむ。

 それだけでも、この料理を考えた人間を褒め称えたくなる。

「ふふっ」

 不意にエルが笑った。

「どうした?」

「ルーフスって意外と顔に出るわよね。温泉たまごだけはいい顔して食べるよね」

 よく見ている・・・が、言われるのは照れくさい。

「先に伝えておきたいのだが、明日は少し野暮用があるので昼食は1人で食べてくれるか」

「どんな用なの?」

 一瞬で顔が曇る。

「次の授業の準備をするのに、その時間に外出しなければならない」

 自宅の隣の公園に行くだけなのだが、事情を話すわけにはいかなかった。

 マレもエルには知られたくなさそうだったし、それ以上にまだ不確かな状況でエルに心配を掛けさせたくなかったのだ。

「誰と食べるの?」

「は?」

 意外な答えが返ってきた。

「誰とお昼食べるの?」

「話を聞いていたのか? 私は授業の準備で外出するだけだぞ」

「嘘」

授業の準備は嘘だが、外出をするのは本当だ。

「どうして嘘だと思う?」

「分るよ。どうせ高橋先生と食べるから私と食べられないって事でしょう?」

 ますますエルの言っている意味が分らない。

「嫌だ。絶対に1人で食べるなんて嫌だからね」

 エルにしては大きい声を出す。

 初めて食堂で食べた時に数人の生徒達に囲まれたので、その日以来お昼を食べる時には周りから一切邪魔されないように結界を張っている。

 それが今日はこんなに役に立つとは。

 じゃなければ、目立ってしょうがないところだった。

 しかし、こんなエルを見たのは初めてだ。

 確かに少々怒りっぽいところはあるが、こんなにも激昂するタイプではない。

 どちらかというと、自分が傷付かないように最初から諦めているタイプだ。

 それが、なぜ?

最近は、どうにも解せない事が多すぎる。

「分った。なるべく早く用事を片付けるように努力しよう」

 私は刺激しないようにそう答えた。

 それについて、エルは一切返事をする事はなかった。


 放課後、エルを校門で待ち伏せる。

 もちろん内緒で。

 こんなやり方悪魔らしくなく情けないが。

 でも最近のエルの行動を知る為には致し方ない。

 校門から出てくるエルを見つけると、私はそっと後ろからついていった。

 もちろん姿は消してある。

 他の生徒達から見られても困るからな。

 でもそれだけではなく、姿を消しておくと隣を歩いていても気付かれないという利点もある。

 もうすぐ学校の最寄り駅周辺だ。

 ここらへんになると人混みが多くなるので、目を離さないように気をつけないと。

 それなのに・・・。

駅ビルに入った瞬間、エルは消えた。

 すぐに気配を探る。

 察知できない。

 これはどういう事を意味するのか?

 嫌な予感しかしない。

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