第17話 ナンパ

 あの日から、ルーフスの顔がまともに見られない。

 私に付き合っていると、嬉しそうに告げた高橋先生。

 その先生との関係を軽く一蹴してもなお、男と女の関係を匂わせるルーフス。

 そりゃあルーフスは大人の男の人で、まして悪魔でもある。

 私が想像できないような事はいくらでもしてきたのだろう。

 でも、できたらそんな事は考えたくもなかった。

 ルーフスが知らない人に見える。

 それになんだか気持ち悪いよ。

 だからお昼も素っ気無い会話ばかりだし。

 放課後はこんなふうに、つい意味もなく駅ビルの中をフラついてしまう。

 できるだけ、ルーフスとの時間を避けたい。

「すいません」

 歩きつかれたのでお茶でもしようかと思い、この前高橋先生に連れて来てもらった美味しいケーキ屋さんのショーウィンドゥを覗いていると声を掛けられた。

 振り向くと、そこには背の高い褐色の肌をした美しい青年が立っていた。

 ラフな服だが、それをおしゃれに着こなしている。

「私?」

「はい」

「何でしょう?」

 こんな知り合いいたかなと考える。

「君、これからこの店に入る予定?」

「はい、そのつもりですけど」

「もし良かったら、僕と一緒にお茶してもらえないかな?」

 え、なに?

 この人ナンパ?

 顔がいいからって、信じられない。

 怪訝そうな顔をする私に慌てて言った。

「ごめん、警戒しないで。実は僕スイーツが大好きなんだけど、1人で食べる勇気がなくて・・・だって男が1人でケーキとかパフェとか恥ずかしいでしょう? でも一緒に行ってくれる女の子もいなくて、それでつい美味しそうなケーキ屋さんの前にいた君に声を掛けてしまったんだ。嫌なら断って」

 ちょっと怪しい。

 でも本当の事なら、気の毒でもある。

 とりあえず、お店では危険な事はないわよね。

 もし本当にスイーツ好きの人なら、同じスイーツ好きとしては協力してあげたい。

「いいですよ。一緒に食べましょう」

「ありがとう、すごく助かるよ」

 その人はとても嬉しそうに、顔をハーッと輝かせた。

 うん、なんかちょっとだけ良い事した気分。


 その人は席に着くと、散々悩んだあげくケーキとパフェを1つずつ頼んだ。

 スイーツ好きというのは本当らしい。

「君もスイーツ好きなの?」

「はい」

「僕は何でも好きなんだけれど、君は何が好きなのかな?」

「私はアップルパイと苺大福が好きです」

「美味しいよね。でもここには両方なかったね」

「ここはタルト類が美味しいから、私イチゴタルトも好きなんですよ」

「分った、君はイチゴが好きなんだね」

「はい」

 知らない男の人と話すのはなんだか新鮮。

 それに人間の男の人と話すなんて、初めてじゃない?

 私の周りって、悪魔と元猫しかいないしね。

 それに、なんだかこの人話しやすい。

「あ、ごめん。自己紹介まだだったね。僕は上野ルイ、大学生なんだ」

「私は三上エルです。高校生です」

「その制服は近くの女子高のだよね? 僕もここらへんに住んでいるから知っていただけなんだけど」

 ちょっとイタズラっぽく笑う上野さん。

 イケメンで優しくて話し上手、私とはまさに正反対な人だな。

「でも良かった、店の前にいたのがエルちゃんで」

 名前を呼ばれてドキッとする。

「ごめんね、名前で呼んで。でも可愛い名前だから呼んでみたくて、いいかな?」

「はい、別に構いません」

 なんだか改めてそう言われるとちょっと緊張する。

「きっとエルちゃんじゃなければ声を掛けなかったかもしれない」

「どうしてですか?」

「だってあんなにケーキのショーケースを真剣に見ている子、初めて見た気がする。それがなんだか可愛かったんだよね。」

 サラッと褒めてくれるが、眉間に手を当てて「ここに皺を寄せて見ている女子高生」と付け加えられた。

 それって、褒めてないよね?

 それでも上野さんとの時間は楽しく過ぎ、お茶も付き合わせたお礼と奢ってもらい別れた。

 そしてこれを縁に連絡先を聞きたいと言われたが、さすがにそれは断った。

 意外と紳士な上野さんはあっさりと引き下がってくれたが、最後に約束させられる。

「もし次に偶然会うような事があったのならば、その時は運命だと思って教えて欲しい」と。

 そして私の返事を待たずに、上野さんは手を上げて帰っていった。

 最後の最後まで、イケメンぶりが半端ない。

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