第14話 勘違い

 最近お昼を一緒に食べていても、エルは笑顔を見せなくなってきた。

 そればかりか逃げ回る事もなく、いつも食堂にいる。

 それなのに、いつもつまらなそうな顔ばかりしていた。

 違和感はそれだけではなく、やたらと会話にサキュバスが出てくるようになった事だ。

 やれ、綺麗だ。

 あんな女性になりたい。

 男の人は好きよね、等々。

 そりゃあサキュバスだし、男に好かれるのは決まっている。

 綺麗じゃなければ、獲物は寄ってこないから死活問題にもなるし。

 ただ、あんな女性になりたいとは意外だった。

 エルが肉感的な女性を求めているとは思えないからだ。

 しかし、本気で憧れてはいるらしい。

 どうして、そう思うようになったのだろう?

 どちらにせよ、エルが男にモテたいタイプだと思わなかった。

 だったら、あの辛気臭い表情をやめたらいいだけなのに。


「ルーフス」

 退屈になったのか、マレが部屋に入ってきた。

 今エルはお風呂に入っているので、つまらないのだろう。

「なんだ」

「最近のエルって、いつも悲しい顔している。何かあったのかな?」

 同じような事をマレも感じているらしい。

 心を読むなと言わんばかりにささくれだっているので、オチオチ心も読めないから真相を探るのも難しい状況だ。

「どうしたら、エル元気になるかな?」

「さあな」

 彼氏になるとは契約したものの、こういう時の対処法がまるっきり分らない。

 もう、お手上げ状態だ。

 明日は第3日曜日。

 本来ならば、入院している母親の病院に月に1度の面会日でもある。

 先月は送り迎えとして一緒に病院まで行ったのだが、明日は一緒に行く事を誘われるかどうかも怪しい。

 もし誘ってくるのならば、一緒にいる時間を嫌がってはいないという現状だと確認できるのに。


 ドアが開く。

 顔をほんのり赤く染めたエルが部屋に入ってきた。

「エル、いい匂い」

 マレはスンスンと匂いを嗅ぐ。

「新しいボディーローションよ。バラの香りだから、すごくいい香りでしょう?」

「うん、この匂い好き」

 ウットリとした顔で匂いを嗅ぐマレ。

「じゃあ次はマレの番だよ。お風呂に入っておいで」

 バスタオルと下着とパジャマをマレに渡すエル。

「はーい」

 素直に従うマレ。

 会話だけ聞いていると親子のようだが、見るとシッカリ者の妹にバカ兄貴と言った感じで滑稽だ。

 マレが部屋から出て行くと、とたんに部屋が静かになる。

「明日、予定ある?」

 口火を切ったのはエルだった。

「いや。お前の側にいる事以外、予定はないが」

「じゃあ明日、ママのところに行くのに付き合って」

「もちろん」

 私の言葉に、何かを言いたげにエルは見ている。

「どうした?」

「別に。たいした事じゃないけど、ルーフスはデートとかしないの?」

「それは気が利かなくて悪かった。どこがいい?」

 最近の機嫌の悪さはデートに誘わない私に対しての不満か。

 たいした事ではなくて良かった。

「もういい」

 それなのに、エルはふて寝するようにベッドに潜り込んだ。

「私寝る」

「分った。おやすみ」

 電気を消して部屋を出る。

 何が気に障ったのだろう?

 女心は難しい。

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