第13話 内緒話
この間の遊園地で、マレが甘い物好きだと知った。
ほとんどの食べものを食べていたけれど、甘いお菓子類を食べている時が1番良い顔をしていたのよね。
それを知ってからは、毎週金曜日にマレにお菓子を買って帰る事が習慣になっていた。
もちろん、ルーフスにも買っていくけどね。
マレとルーフスが食べた事のないお菓子を選ぶだけでも楽しいので、この習慣はしばらく続きそう。
今日は何しようかな?
学校の最寄り駅の駅ビルでスイーツを見ながら歩く。
確か先週は苺大福を買って帰ったのよね。
マレは猫時代から苺が大好きだったから、すごく喜んでくれた。
ルーフスも意外と餡子が好きらしく、あっという間に食べちゃっていたわね。
その前はバームクーヘン。
マレはフカフカの生地にご満悦な顔をしていた。
今週のセレクトショップは何を売っているかな?
毎週目玉の美味しいもののお店が変わる場所がある。
先週は苺大福が売っていたので、そこで買って行ったのだ。
今週は・・・。
「あら、買い物?」
肩に手を置かれて振り向くと、相変わらず美しい高橋先生が立っていた。
「先生」
「こんばんは、三上さん」
「こんばんは、高橋先生」
学校では「ごきげんよう」が挨拶の私達だが、外ではごく普通の挨拶を交わす。
じゃないと目立って恥ずかしいので、これは暗黙の了解だった。
「買い物?」
「はい。美味しいスイーツを買って帰ろうと思って」
「あら、怪しい。誰かと食べるの?」
色っぽい声で言われると、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「飼っている猫と一緒に食べようと思って」
なぜか真っ赤になりながら答える。
「ふぅん、猫ね」
その答えに、意味ありげに私を見る。
「先生も買い物ですか?」
耐え切れず、当たり前の事を聞く。
「私は洋服でも見ようかなと思ってここに入ったのだけど、三上さんの姿を見つけたからついてきちゃったの。お茶でも誘おうと思って」
誘われるのが素直に嬉しい。
「もし時間があるのなら、行かない?」
「はい、喜んで」
どこかの居酒屋のような挨拶をして返事をする。
「わあ、嬉しい。この上の階に美味しいケーキ屋さんがあるの。そこでもいいかしら?」
「はい。ケーキ好きなので嬉しいです」
「じゃあ、決まり」
ケーキが美味しいなら、そこでお土産を買ってもいいかも。
そしたら2人とも喜んでくれるかな。
私は高橋先生に付いていった。
「三上さんは、好きな人いる?」
「好きな人ですか?」
お茶をしながら唐突に聞かれて、考え込む。
うーん、どうなのだろう?
一応ルーフスは彼氏だけども、好きかって聞かれるとそれとは違う気がする。
かと言って、マレは猫だし。
ってか、私の周りってその2人しかいないじゃない。
その時点で、乏しい恋愛環境よね。
なんだか悲しくなってきた。
「たぶん、いないと思います」
正直に答える。
「たぶんって何、三上さん面白すぎ」
その答えに、高橋先生はコロコロと笑う。
高橋先生は相変わらず綺麗だな。
これだけ綺麗だったら、私なんかと違って恋愛環境は豊かそうだ。
「どんな人がタイプなの?」
タイプか・・・考えた事もなかったかも。
ただ一般的にカッコ良くて優しくてクールな人!くらいしか思いつかない。
あと・・・。
「私だけを愛してくれる人がいいですね」
「もしかして三上さんって、独占型?」
「いえ、そうではないですけど・・・ただ他の人を愛されたら勝ち目がないので、私だけを愛して欲しいです」
「三上さんすごく可愛いのに、勝ち目がないなんて謙虚すぎよ。大丈夫」
「そんな事ないですよ」
「でも好きって言ってくれた人が、他の人を愛してしまったらショックよね」
「たぶん。大袈裟だろうけど、死んでしまいたくなるくらい悲しいかも」
その時、なぜかルーフスの顔が浮かんだ。
もしかして私、ルーフスが他の人を好きだと言ったら悲しい気持ちになるのかな?
想像できないけど、できたらそんな事は起こらない事を願う。
「ここのケーキ、美味しいでしょう?」
暗い顔つきの私を逸らすように、ケーキの話を振る高橋先生。
大人の気遣いって感じ。
こういう人だったら、私も自信持てるんだけどなー。
「あら、ありがとう」
「え?」
「今フォーク取ってくれたじゃない。どうしたの? ボーッとしちゃっていた?」
「え?」
意味の分らない高橋先生の会話。
でも良く見ると確かに私フォークを差し出すところだったみたいで、右手にフォークを持っている。
無意識だからなのか、その記憶はまったくなかった。
なんだろう?
先生が一瞬、心の声に反応している?と思った瞬間に記憶が飛んだ。
なんなのだろう、この違和感。
とても気持ちが悪い。
「そう言えば、三上先生って人気があるみたいね。もしかしたらあなたもファン?」
話を逸らすように、高橋先生が話を振る。
それがルーフスの話だったので、一瞬ドキッとした。
「私は特に」
「珍しい。みんなキャーキャー言っているのに」
「人気がありすぎて、近寄りがたいなーって」
曖昧に濁す。
「ふぅん」
そんな私を妖しい眼差しで見る先生。
なんだか、見透かされそう。
「先生はタイプなんですか?」
「三上先生?」
「はい」
いつも保健室に入り浸っていると噂を聞く。
その真意を知りたくて、私は聞いてみた。
「うーん、難しいわね」
先生はもったいぶるように、髪をクルクルと弄びながら言う。
「難しいですか?」
「だって仮にも教師でしょう? 恋愛ごとを生徒に話していいものかと思って」
小悪魔っぽい視線が、妖しい関係を物語っているようだ。
「ねえ、エルちゃんって呼んでもいい?」
「は、はい」
いきなりの名前呼び。
ドキドキする。
「嬉しい。三上さんとは気が合いそうで仲良くなりたかったの。だから名前で呼びたかったのよね、だからエルちゃんだけには本当の事教えちゃおうかな」
本当の事?
「実は私と三上先生、付き合っているの。みんなには内緒よ」
その瞬間、金槌のような物で頭を叩かれたような気がした。
気付くと私は、ケーキもお土産も一切買わずに家に帰っていたのだ。
その後の事は記憶にない・・・。
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