第7話 サキュバス
教師になって数日が過ぎた。
なんとも退屈な日々が続いている。
それでも生徒達に慕われ、授業をしたりするのは思ったよりも悪くはなかった。
寧ろ、昔からここにいたのではないかとさえ錯覚する時さえあるくらいだ。
ただ、本来の目的からは少し遠い気はする。
いや、かなりか。
私は教師になって側にいる事を選んだら、エルは喜んでくれると思っていた。
それなのにまったくの逆で喜んではくれなかったのだ。
それがなぜかまた心をざわつかせる。
この感情が何なのかは分からないが、とても不愉快なのは分かった。
不愉快と言えば、あのマレという猫。
いや、今は人間か。
あいつも人間にしてやった恩も忘れて、私を敵視していて油断ならない。
そして、エルに異常にご執心なところも不愉快だ。
私はエルに対して恋愛感情はまったくない。
こちらからしてみれば、16歳なぞ赤子も同然だからな。
女としての魅力なぞ感じる方がおかしい。
それでも、マレがエルにまとわりつく様を見ているのは不愉快で仕方ない。
最近は、そんな自分の感情にかなり戸惑ってはいるのだが・・・。
この感情はなんなのだろう?
ヤキモチとも少し違うような気もするし・・・ふむ。
とりあえず夜中に変な気を起こされたらエルの身が危ないので、ベッドに近寄れないように結界を張っておく事にしよう。
しかし目を光らせる事は怠らないようにしておかないと。
「はあい。ルーフス」
学食に向かう途中で呼びかけられる。
たぶん、あいつだ。
そこには白衣でさえも隠しきれていない、肉感的な身体をしていた女が立っていた。
「その名前で呼ぶな、サキュバス」
あれから妙に懐かれて、とうとうこの学校まで新任の保険医としてもぐりこんで来た。
とは言っても、真相は何に興味を持ったのかは定かではないが。
「サキュバスじゃなくて、高橋サキ先生って呼んでくださらない」
「高橋先生、私の事も三上と呼んでくれないか」
「了解、三上先生」
サキュバスはいつもの厭らしい目で楽しそうに笑った。
相変わらず、喰えんヤツだ。
「ねえ三上先生、たまにはお昼ご一緒してもいいかしら」
まとわりつくような猫なで声。
悪魔の私相手にそんな声を出しても意味はないというのに・・・。
しかし困った。
お昼はいつもエルと食べているのだ。
とは言っても学校では私を避けたがる傾向にあるので、強引に隣で食事をしているだけだが。
それは食堂だったり、中庭だったり、屋上だったりと毎回探すのに大変だが、かくれんぼの鬼になったと思えばそれなりに面白い。
今はこのお昼のかくれんぼが私のちょっとしたマイブームになっていた。
今日もこれからエルの気配を頼りに探そうと思っていたのだが、こいつがいるとなると話は変わってくる。
エルに会わせたくはないし・・・。
これ以上悪魔が増えたと知ると、絶対にややこしい事になるぞ。
あいつがパニックに陥るのが目に見えるようで考えただけで面倒くさい。
それに私の獲物を他の悪魔に晒すのにも抵抗を感じる。
さて、どうしたものか。
「何かご予定でも?」
黙りこくっている私に痺れを切らしたのか、サキュバスが問う。
「いや。お前と喰うのは久しぶりに楽しそうだ」
促すように食堂へ向かった。
なるべくならエルの1人の時間を減らしたかったが、今日は諦めよう。
さっきの問うたサキュバスの目は、明らかに悪意が隠れていた。
こいつは、何かある。
それはたぶん、私を通してエルに向かっている可能性があるような気がしてならない・・・。
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