第5話 彼氏
いつものように暗闇の中で目覚める。
それでも昨日とは確実に違う今日。
見えない鎖でもあるのか、あの契約を交わした日からエルの日常が見えるようになっていた。
人間との契約を交わすと、いつでも繋がるようになるとは知らなかった。
なにせ、生まれて初めての契約だからな。
しかし、人間とはこうも孤独なものなのだろうか。
エルの日常は常に1人だ。
特に親しい人がいるでもなく、学校でも家でも楽しそうに笑っているのを見る事さえもない。
たまに微笑んだかと思うと、愛猫と戯れている時だけだ。
私に名付けた時の無邪気な笑顔も幻だったのではないのかとさえ思うほど、エルは孤独に見える。
「私に何を望む・・・」
つい溜め息と共に、言葉が漏れる。
まだ少女だというのに孤独なエル。
そのエルの望む彼氏とは何なのだろう。
人間の事などを知る必要もないのに。
なぜかエルを見ると、心がざわついて仕方がない。
何かが引っかかり、思い出してしまいそうなこの感覚。
この気持ちはなんなのだろう。
遠い昔に置き忘れてきたかのような・・・。
とりあえずその感覚が何なのかを確かめる為にも、その彼氏という意味を探ってくるか。
私は地上へと赴いた。
ふむ、寒いな。
エルのいる東京の空は白く、冷やりとした空気が頬を撫でていく。
見よう見真似で厚着をしてきて良かった。
このコートというものは中々暖かい。
私は自分のチョイスの良さに気分を良くした。
さて。
人間世界と共存している悪魔がここらにいるはず。
目を凝らし耳を研ぎ澄ませ集中して探す。
・・・いた!
一瞬でそいつの元に飛ぶ。
「あら、久しぶり」
「久しぶりだな、サキュバス」
突然の訪問にも関わらず、相変わらず愛想がいい女だ。
「どうしたの」
「教えてもらいたくてな、色々と」
「あら、私に?」
「ああ。知らない事が多くて、とても不便をしている」
「面白い、あなたほどの人がね」
サキュバスは本当に楽しそうに笑った。
「からかうな」
「誰かの僕にでもなった?」
「僕ではなく、彼氏にはなった」
「は?」
目を真ん丸くさせたかと思うと、サキュバスは腹を抱えて先程よりも楽しそうに大きい声で笑って見せた。
「久々に会ったと思ったら、ずいぶんと面白い冗談を言うようになったわね。昔は面白さの欠片もなかったのに」
「冗談なぞ言ってない」
「相手は人間かしら?」
「ああ。16歳の少女だ」
「その子、ずいぶん怖いカードを引いたわね。あなたに彼氏を頼むだなんて・・・。報酬は何?」
「魂だそうだ」
「ふーん、少女の魂ね。美味しそう」
「魂なぞ興味はないだろう、お前は」
「でも、あなたに彼氏を頼んだ少女にはちょっと興味沸くわ」
意味ありげに舌なめずりをしている。
「ふん、くだらん」
「で、何を知りたいの?」
「彼氏とはなんだ」
「は?」
サキュバスはまた楽しそうに声を出して笑う。
コロコロとよく笑うヤツだ。
「意味も分からずに契約したの?」
「・・・・・・」
それを言われると何も言い返せん。
「ふーん」
サキュバスが探るように見ているのが分かる。
人間世界と共存しているからと、こいつに会いに来たのは失敗だったかもしれない。
愛想がいいフリをして何を考えているのか分からないところがあるから、昔から喰えんヤツだったしな。
まあ、悪魔は全体的に信用できないのが事実だ。
「いいわ、教えてあげる」
「助かる」
「あなたほどの人に教えてあげられるなんて、この先絶対にないでしょうからね」
とても厭らしい目つきが、俺を本当に後悔させた。
そして彼氏の意味を知って、さらに愕然とした。
少女の考えがあまりにも愚かで・・・。
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