第70話 再編
-Evan-
その後太陽が頂点に上り切るまでに団長達は騎士団本部から戻ってこられた。
任務復帰が可能な隊員のみが講堂へと招集され、それぞれの部隊で整列するが、隊長が不在な隊もあれば、隊そのものがないところもあり、こうして改めてみると本当にボロボロだな…。
いくつかの指令所を小脇に抱えた団長がゆっくりと高台へとのぼっていく。
傍らには副団長もいるが、高台の下には見慣れない人物が数名いた。
「皆、ご苦労じゃった…。エヴァンが持ち帰った水の解析結果は深緑の森で目撃された黒い土と同様の魔力成分が検出された。威力としては森の数倍以上だそうじゃ。
沼に取り込まれた者たちは中で魔力を吸収されていると考えられる」
「…では、その者たちの救出はいかがされるのでしょうか?」
飲み込まれた中にはここの団員も多からずいる。
だが、森の時と違って水は切れないし、砕けもしない。
異空間に散りこまれたという仮説が濃厚である以上、外界のこちらからでは足取りを掴むことすら困難であり、打つ手はない、と言っても過言ではないだろう。
「どこの騎士団も人員は減り、ひどく疲弊しておる。
救出作戦は一旦中止じゃ」
「中止…。ではせめて沼付近の見回りは続けましょう。
近隣の村、町には近づかないよう知らせてはいますが、念のため」
「…そうじゃな。巡回ルートを改変し直し、最低限の人間で構成してくれ。
エヴァン、ティム、ヴェルディ、その他数名は護衛・その他へ」
「承知致しました」
ティム、ヴェルディも情報収集や護衛から戻ってきてこの場にいることだし、この後でまた段取りについて話し合わないとな…。
「…そして、騎士団本部より、3名の癒し手が派遣されることとなった。
この者たちに負傷者の対応を請け負ってもらう。そのため今まで治療に当たっていたアイビーを筆頭とした隊員も、巡回もしくはほかの任務に就くように」
癒し手の派遣とかあるのか。
これでアイビーも引っ張り出せるし、治療に俺たちが当たらなくていいならもう少しだけ戦力を補充することができる、というわけか。
「ではこれにて解散とする」
-食堂-
あの後、食堂で話をしようということになり講堂を出たその足で食堂へ向かった。
だいぶ遅い時間のためか、食堂は閑散としていて、人の影はまばらだ。
「ティム、ヴェルディ」
俺より少し遅れて食堂に揃って入ってきた2人に声を掛けると、それぞれ片手を挙げた。
「よっ」
「ただいま」
前回のように、丸テーブルの上に森一帯の地図を広げ、現時点での情報共有を行う。
聞いた限りだとティムはペタウロ族を探しに土竜族の長に協力を仰ぎ森へと赴いていたが、どうやら無事に見つけられたらしい。あの10㎝ほどの魔獣を。
そして事情を土竜族の長から説明してもらい、件の石碑に触れるところまで完了したとのことだった。
澄鈴を使わずに結界の一角を修復できたとあって、俺もヴェルディもすごく驚いた。
そんでまぁ、ティムに関してもう一つ驚いたことが…
「…なぁティム、さっきから隊服のポケットからひょこひょこ頭が見えるんだが」
「あ~…、ペタウロ族になんでかえらく懐かれて…」
胸ポケットにそっと手を突っ込んでひょいと出てきたのは先ほどまで話してたペタウロ族の1匹だった。
「まさかの従属魔獣になった」
「マジか」
勇者なんか消えればいい。 花宮 蒼 @hssh341
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