第69話 陽は昇る



「こんばんはー!」



 あれだけ騒然としていた騎士団内に、冗談かと思えるほど明るい声が響いた。



「今の声、もしかしてウィル君…?」


 騎士団の入り口からこの広場までは大講堂を抜けてすぐだ。

カツン、カツンという鉄製靴〈ブーツ〉の音がだんだんこちらに近づいてくるのがわかる。



「お、お邪魔してます」

「こんばんは!」



「ウィル君にパンジーちゃん!!いいところに来てくれた!」


 声の通り、勇者の子孫であるウィル君と、その仲間であるパンジーちゃんが現われた。


「え?これは今どうなっているんですか…?!」


 

 広場に横たわる2頭の竜〈ドラゴン〉に、慌てふためく隊員達をみて2人まで慌てだした。

 回復魔法の得意なパンジーちゃんがこのタイミングでやってきてくれたのはとても大きい。今この騎士団内で起こっている事をわかりやすく大雑把に伝え、早速カレンさんとエドさんの治療を開始してもらうことに。



 半刻後。



 とりあえずカレンさん、エドさん、竜〈ドラゴン〉の順に傷を診てもらった。

エヴァンの処置が的確だった(らしい)こともあって、毎日魔力を注がなければならないという事態は免れた。が、しばらくは安静が必要であるため前線部隊からは外さなければならない、とパンジーから告げられた。


 竜〈ドラゴン〉達もそれぞれ薬を調合してもらい、森まで送り届けた。そしてそのまま森の大樹の根に二人してもたれ掛かって座り込んだら、どちらからともなく話しだした。


 森はいつでも新鮮な空気と立ち入った者を癒す力で満たされている。

木々の合間から夜空が見え、それが余計に言葉を押し出そうとする。



「だいぶ戦力を削がれてるな…。

団長の戻りを待って、もう一度再編しないとだな」



 いつも、胸を張って団長にも意見するエヴァンが長い溜息と共に言葉をこぼした。



「そうだな…。今動ける上級が、俺と、リグだけってのがなぁ。で、信用して動かせる人で、真ん中のエヴァンと、その他数人に、下のティムとヴェルディ。それに副団長と団長って考えて数えてもざっと10人いるかどうかってところだし。


…勝ち目あると思うか?俺達だけで」


 俺は、正直、キツイ。


 連日、長距離任務に就いていることで竜〈ドラゴン〉達にも疲労の色が見え始めている。魔獣でこれなのだから、俺達人間はもっとしんどくなってきているのが現実だ。



「…そうだな。

動ける俺達も無傷なわけではない。みんなどこかしらに傷を負ってる。

他の騎士団も総出で今回の騒動の解決に向けて動いてるみたいだけど、どこも似たような感じらしいな」



 いつもなら、『何とかなるだろ』

って言うエヴァンも今回ばかりは不安そうな表情を浮かべてる。

エヴァンでも頭を抱えるほどの敵を相手にして、俺にはもうどうしていいのか分からない。


 エヴァンのすっと伸びた背中も、今ばかりは丸く、頼れる背中は小さく見えた。



「…とにかく今の俺達にできるのは自分の療養と、相手の情報を集めること。

あと、ティムの報告を待つこと。それしかない」


「…そうだな」



 朝陽が上がるその時までその場から動けずそこにいた。


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