第68話 扉と歪み



-Evan-

 


 騎士団内でそんな帰還状態になっていることを、目では確認していない俺達はと言うと、魔界の入り口のある東の森の中にいた。


「ちょっと久しぶりだな、この森も」



 初めて下界に降りてきたあの日通った道を、今回は辿るようにして歩いている。

おおよそ森の中心部まで来たところでヒトに見られても肉眼では確認されないようにルイスにちょっと速い速度で垂直に上昇するように伝え、現在は上空に漂っている。



『そうですね!あの時はどうなるかと思っていましたが、流石エヴァン様。ヒトの中でも存在感がありますね』


「悪目立ちのような気もするけどな。


…さて、この辺でいいか」



 俺達の国の入り口は何の変哲もないところにある。

水の中だったり、空の上だったり、獣の口の中だったり様々だ。

大体俺が使うのは空の上が多い。


何故なら一番入りやすいから。



 何の変哲もない、何の目印もない、ヒトから見ればただの雲に手を伸ばす。

そしてゆっくりと〈闇〉の魔力を適当につかんだ雲に流しこむ。


そして流し続けること数刻。


立派な扉の完成~!



「…と、まぁ、茶番は置いといて。

俺達にははっきりと扉の形が見えているのだが、もしかすると〈闇〉の魔力を持たないヒトにはただの歪みに見えてるのかもしれないな」


『…勇者の日記ですか?』


「そう。追いかけた先にあった歪みに飛び込んで、城の近くへ入り込んだなら、そうなのかもしれない。

先日の見えない奴らの入り口も似たようなもんなのかもしれないな」


『異空間に繋がるような入り口ならそうなのかもしれないですね』



 開ききった扉の先は暗いがよく知った故郷の風が俺達を誘い、ゆっくりその先に飛び込んだ。





-Ivy-



「ひとまず傷の塞がった隊員から薬室へ運べ!


ヴェルディは帰還次第薬室にて対処を!」



 まずは軽傷レベルの隊員から薬室へと搬送する。

ひときわ重症の二人に関しては動かすと傷口がさらに広がる可能性があり、仕方なく広場でそのまま治療に当たってもらっている。




「傷から見ても北の地には〈水〉の魔力を持った異端者が居ると考えていいと思う。

いくら相性の悪い属性だったとしても、騎士団の上級隊員が2名向かってこの有様か…。西といい、北といい…どうしたもんかなぁ」


「そうだな…。もう一度編成と作戦を練り直す必要があるな。


アイビー、エドさんの傷はどうだ?」



 癒し手が皆無なうちで薬草を扱えるのはティムとエヴァンくらい。ティムは別任務で出払っているためエヴァンには特に重症なカレンさんの治療に当たってもらっている。



「回復薬〈ポーション〉の効果も合わさってだいぶ脈も落ち着いてきた。左腕の負傷は激しかったが傷も薄まってきたし、あとは目が覚めるのを待つくらいだな。

…カレンさんは?」



 エドさんを運ぶように他の隊員に伝え、様々な種類の薬草に囲まれているカレンさんの顔色を覗き込んだ。



「…傷自体は薬草で塞げるけど、一時的に凍り付いた影響で根本的な傷の治りが遅いようだ。エドさんよりも凍り付いた面積が大きいことと、消費した魔力量が多すぎることが一番の問題だ。


…あとは毎日傷に薬草を塗布することと、少しずつ同属性の魔力を注ぎ込むことで意識も回復するはず」



 と、ひとまずの手当てを終え、カレンさんも丁重に薬室へ運ぶよう周りに伝えて、俺とエヴァンは彼らの相棒の元へと歩を進めた。


動ける竜〈ドラゴン〉たちにはそのまま森に戻るように伝え、どうしても動けないカレンさんとエドさんの相棒たちのみこの場で傷を診ることとなった。



「……竜〈ドラゴン〉達もちゃんと専門家に診てもらった方がいい。

応急処置くらいしか俺にはできない。

竜はそれぞれの個体で効く薬草が違いすぎる」


 竜に関してはそもそもの治癒力が高いために、薬や魔力での回復過程を踏むことが少ないために、どの種類の竜にはどの薬草の効能が適切なのかが文献にも載っていない。

だから手っ取り早く癒し手に診てもらう必要があるのだが、ワイアットに癒し手がいた覚えがない…。



 うーん…、と頭を抱えたその時、正門の開く音がした。

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