第66話 飛び込み




 あの部屋から飛ばされ、この暗い空間の中をウロウロとしていた。


「もうニンゲンはいないだろうし、いっそのことある程度の量を放出するのもアリだな」


 薄暗いものの、自分やルイスの躰は確認できるほどだ。

ということは誰かほかの人物が居ても肉眼で確認できるだろう。


『如何いたしますか?』


「そうだな…。とりあえず、さっきから姿を消しているのか、見えないのか知らないけど離れたとこからこっちを見てるモノに聞いてみようかな」


 というと空間は捻じれ、更にどこか別の空間へ飛んだようだ。

空間の色が違う。



〔----!---- --- --!〕


 ニンゲン界のものでも、魔獣、精霊族のどれとも似ているようで

違う言葉らしき音が四方八方から聞こえてくる。



「…もしかすると敵陣の真ん中にいるかもしれないな」

『エヴァン様の予感はよく当たりますしね』


 会話なのか、そうでないのかもわからないが、見えないヤツらが音を出すたびにグニャグニャと空間が動いている。酔いそうだ…。






〈世界の端〉


-??-



『主に相応しい依代を手に入れるべく、まずは魔力の素を集めねばならん。

何か良い案はないか?』



 ”南に放った同胞の気配が途絶えた”


 という主の発言の後、同胞の一人がこう提案した。

 南へ旅立った同胞に関しては本人が帰還してから聞くしかない。(戻らなければ聞けぬ話だがな)


『西の方角にエネルギー源を設置した大沼があるだろう。そこにニンゲン共をおびき寄せて取り込み、魔力を吸収してしまえば手っ取り早いのではないか?』


『おぉ、その手があったな。

では早速ニンゲン共の魔力を調べて属性ごとに吸収し、此方に送るのだ!』



 

 …と、まぁ途中までは順調だったのだが、一人と1体、規格外のニンゲンが沼に飛び込んできたことが感知された。


今まで飛び込んできたニンゲン共は、馬鹿みたいに一つの魔力だけを放ち、同じ空間内に留まって居たのだが、そいつらはいろんな空間に飛びながら我々のいるこの世界に近づいてきたのだ。


そして、あろうことか我々がいるこの空間にまで飛び込んできた。



『おい…、このニンゲン魔力量が他のニンゲン共と桁違いだぞ…』


『そもそもなぜこの空間にまで飛んでこられたのだ…!?』



 この空間は我々を構成する魔力で作られている。

我々の属性は〈闇〉が〈邪〉へと変化したもの。

そのため〈闇〉の魔力を有するドラゴンとは会話ができたりもするのだが、どうも馬が合わない。なんせあの魔王の爺さんの手下だからな。


だからこの空間にドラゴンが飛び込んでこれたのは分からなくもないが、ニンゲンがはじき出されなかったのはなぜか。


 

『このニンゲン、いや、ニンゲン界のものではないな』


 ニンゲンではないなら、この魔力量も、この空間に侵入してこれた理由も分かる。

しかしそれならば何故ニンゲンと同じ格好をしているのだ??



『まさか、この男…魔族か!?』


 そのあたりにいる同胞が叫んだ。



『…どうする?こいつが魔族とわかった以上、不用意な手出しができぬぞ…!?』


 〈闇〉と〈邪〉は反発する似て非なる属性だ。

この異空間でそんなものがぶつかりでもすればこの空間、魔力もろとも消滅するだろう。それは何としても避けて、魔力だけでも主に届けなくてはならない。


『(この男が魔族であるならば我らでは相性が悪すぎる)

…この大沼は捨てて一旦主の元に戻ることが賢明な判断ではないか?』


『そうだな…。この状況では致し方ない。

…覚えたぞ、この男の顔と竜を。そう何度も関わりたくはないが、次に会った時には容赦はせぬぞ!!』


 目の前の男がこちらに手を出さぬうちに、今手元にあるニンゲンから吸い取った分の魔力をひとまず飲み込み、此処とはまた別の異空間へと飛んだ。



-Evan-


「…奴らこの空間から出ていったようだな」


『みたいですね…。黒いオーラがきれいさっぱり消えました。

やはり〈闇〉と似たオーラでしたね』

 


 グニャグニャとした空間の捻じれもなく、さっきまでのあの酔いそうな感覚もない。ここがただの異空間なら、外に残してきた保険が使える。


長居も無用だし、さっさと出るか。



「…一度父上の元を尋ねる必要がありそうだ」


 おそらく父上なら答えまではいかずとも何かしらを知っている可能性は高い。


『先代様、お元気でしょうか』


「元気だよ。元気がないときは大体母上と喧嘩している時くらいなものだからね」





 "道"を辿って外へ出ると、そこには一人のニンゲンもおらず、外では俺の考えた通りに事が進んでいるようだった。


「さて、しばらくは土人形〈ゴーレム〉に任せて、俺達は一度里帰りをしようか」





 

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