第65話 部屋
-Evan-
飛び込んだ先は案の定真っ暗な闇の中。でも、俺の知っている闇ではない。
『…魔力の性質自体は我々の〈闇〉魔力と似ているようですね』
「そうのようだな。でも、こんな歪な波は魔界に溢れているものとは全く違う。
なんというか…、魔力に輪郭が無い、感じがする」
”魔力”は目には普通見えないものであるが、はっきりとした、この魔力は〈闇〉である、という輪郭のようなものが感じられるのだが、
この空間に充満しているものにはそれが感じられず、まるで、色々な色が混ざっているかのような、そんな感覚だ。
「さて、この空間の裂け目は何処にあるのか…。色々探してみるか!」
おそらくこの空間自体には、吸い込まれたというヒトらはおそらくいない。
”空間の裂け目”と呼ばれる
これは俺の立てた仮説だが、おそらく奴らは膨大な魔力を求めて、”黒いモノに触れた者の魔力”、ではなく魔力を宿す”ヒトそのもの”を取り込みにかかったのではないか、ということ。
『しかしエヴァン様』
「ん?」
『お言葉ですが、もしヒトらが部屋に飛ばされたとして、何故私達はしばらくたっても最初の空間に留まっているのでしょうか…』
上も下も分からないこの空間の中を、ルイスの背中から辺りを観察するが、
1点の光はおろか、空間の裂け目も見当たらない。
そこで、ある仮説が頭に浮かんだ。
「…これもあくまで推測だが、こうして意識があるということは、先に入った奴らも意識もあったと考えられる。が、よっぽど冷静なヒトかこうなると解っていた人物以外はまずこの空間に対して攻撃を仕掛けるだろう」
『なるほど…。そしてその魔力に反応して部屋に飛ばされた可能性がある、ということですね?』
「そういうことだ。
魔界への入り口は此処と似たような空間だ。もし似てるとすれば、ここで奴らの黒い魔力を放出すれば、奴らの巣穴に辿り着くかもしれない」
しかし、ここで〈闇〉の魔力と放てば、俺がヒトでないことがばれてしまう可能性がある。
「仕方ない…。〈炎〉単体で攻撃してみるか。ルイス、頼む」
『はい』
どちらが正面か分からないが息を吐くように炎を吐いた。
すると今まで淀んでいた空間に〈炎〉の魔力が加わったように赤みがかかった空間へと変化した。
どんどんと空間の壁が薄くなっていき、おそらく外であろう景色が見え始めた。
『エヴァン様、ここは…』
おそらく今外に見えている景色は魔界でもなければ下界でもない、その場所。
外を観察するようにその景色を眺めていると、見慣れたワイアット騎士団の紋章が印されたローブをきた人物が見える。
「とりあえず出てみるか」
外に出るとそこにはヒトというヒトがたくさんいた。
見慣れない服装はひとまず置いておいて、見知った同じ中級の団員の元へ飛び近寄った。
するとルイスの躰の大きさか、その羽ばたき音で気が付いたか、バッと後ろを振り返り声を上げた。
「エヴァンじゃないか!
君が居るということは援軍が外にいるのか?!」
吸い込まれたらしい騎士団員数は3,4人ほど。
他の組織団もおおよそ同じくらいの数がここにいるようだ。
「はい。アイビーとリグとともに来ました。
ここへ来る途中、採取した沼の水をアイビー達に預けてきたので、今頃持ち帰って沼に溢れる魔力について解析が行われているはずです。
ひとまず俺達は此処から出る手立てを考えましょう」
「おれ達もいくつか試したんだ。
ここに来たときは、上も下も分からない場所で魔力を放出したらここにはじき出されたんだ。
此処も同じかと思って、他の騎士団員と試してみたが、この場から消えた者と、俺達のように残ったままの者に分かれたんだ」
内輪で話していたはずが、いつの間にかその場にいるヒト全員に囲われるような形になっていることに気が付いた。
ルイスの躰がどの
「…さらにここから飛ばされた者がいるのですか」
「あぁ、北西の砦の団員たち数名だ」
「ここで魔力を放出した時、全員が同じ魔力を放出したのか?」
これも仮説の一つだが、ここにいるのは〈炎〉属性の魔力を放出した者だけで、他の魔力を放出した者らは別の部屋に飛ばされたのではないか、ということだ。
案の定、その隊員が口にした言葉は仮説と同じものだった。
「…やはりそうですか。
だとしたらいくつかの部屋に分散してしまっていると考えていいでしょう。
ここの入り口は沼でした。ならば〈水〉の魔力を試してみましょうか」
俺はもう少しここで調査したいところだが、このままこのニンゲン達を外に出せば土人形〈ゴーレム〉の回収がややこしくなる。
…ちょいと記憶をいじらせてもらうか。
「じゃあ今ここにいる全員で一斉に魔力を放出してみてくれ」
放出されると同時に、俺自身は〈水〉にほんの少しの〈闇〉の魔力を混ぜて、ニンゲンに振りかけた。
一時的にこの空間であった出来事を改変し、ちょっとの間忘れてもらう。
これだけ多くのニンゲン達で放てばどこかしらの部屋には飛ばされる、もしくは外に出されるだろう。
案の定、空間は青色の光に包まれ、ニンゲン達はどこかに飛ばされた。
俺はというと、ほんの少しの〈闇〉の魔力に反応して、更に暗い部屋へと飛ばされていた。
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