第62話 騒然
-Evan-
「じゃあ行ってくるね」
陽が昇り、辺りが明るくなり始めた頃、ヴェルディを先頭とした護衛班が出発した。
一方俺は、昨日書面に起こしたそれぞれの役割表を手に資料庫に足を運んでいた。
「ダマジカ族とエルフ族か…。(エルフのほうが面倒だな…)
よし、先にダマジカ族を調べるとするか」
資料庫にある獣族に関する資料を片っ端から引き抜く。
その中から、シカ族関連のものとそうでないものを選別していく。
ある程度数が集まったところで、窓際に腰かけ、積み上げた紙束の一番上を手に取った。
「やっぱり…、シカ族の方が発見数が多いし、資料も山ほどあるな」
シカ族は7日間で数えても、一日に5回以上遭遇するほど発見数が多い。
しかしその点エルフ族はほとんどと言っていいほどヒトの前には姿を現さない。
そう、奴らの警戒心が強すぎるのが面倒な点の一つだ。
出会わないが故に、奴らの得意とする魔力がどの属性なのかがわからない。
もしこの土地のエルフ族が〈光〉属性であるならば、俺はヒトよりも相性が悪い。
俺は〈光〉と〈水〉属性が嫌いだ。
万が一、ここのエルフが俺の嫌いな属性だった場合、力技でごり押すしかないと思ってる。
まぁ、エルフのことはいったん置いといて、ほかの隊員たちと共有するために
いくつかあるダマジカに関する資料を一枚の紙にまとめていく。
シカ族の習性、適応環境、属性…っと。
大方まとめ終わったころ、既に陽は真上まで昇っていた。
まとめあげた資料を重ね、紐をまきつけた。
ひとまず昼餉を取ろうと重くなった腰を上げた時、窓の外から聞きなれた声がした。
「おーい、進行状況はどうだ?」
ここは2階だ。外から声がするとすれば、
下から呼びかけているか、
「…この声は、アイビー?」
窓の外に顔を出すと、やはりそこには
「帰ってきたのか。…早くないか?」
「戦況が変わった。
じきに各地へ飛んだ隊員たちが戻ってくる」
「…何があった?」
目を伏せたアイビーの表情は暗く、北の地で何かがあったのは確かだが、アイビーはそれ以上何も語らなかった。
その後アイビーの言う通り、続々と各地へ飛んでいた中級隊員が帰還し、広場は騒然となった。
立て込んでいる任務については団長から、下級隊員は現在の任務を続行せよ、との指令が下ったため俺はティムに紙束を全て預け、広場へ向かった。
-広場-
次々と帰還してくる隊員達に共通して言えること、それが皆、大小幾多もの傷を負っていることだった。
特に酷いのが北の地へ出向いた隊員達だった。
身体のあちこちに凍傷のような痕があった。
治療はされているようだったが、無事とは言い難い状態だ。
帰還してきたのはどうやら中級隊員だけのようで、上級隊員の姿は見えない。
おおかたの人数が揃ったところで、壇上に団長・副団長と、袖にアイビーが登った。
ちなみに俺は壇上から最も遠い壁際だ。
そして、団長が静かに、重い口を開いた。
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