第61話 3人の顔
「…さて、他は全員食堂から出たな?」
「大丈夫。もうここには私達だけよ」
地図を広げたテーブルを囲って、俺、ティム、ヴェルディの三人が向かいあう。
実を言うとこの3人で顔を合わせてちゃんと話をするのはこれが初めてだ。
ヴェルディがあんなに物を話すとは…と思っていたのは俺もティムも同じだったらしく、
「ヴェルディ…、あんなに言葉をしゃべってる姿、俺初めて見たぞ」
と、唖然とした表情でウェンディに話しかけていた。
「私だって喋るときは喋るわよ…」
ふいっと視線を横に反らす姿も、今まで見たことがなかった。
…これは俺達にも慣れてくれたってことでいいんだろうか?
「2人が前線で頑張ってるのに私だけ後ろでもたついてるなんて嫌だから…」
先程まで上がっていたヴェルディの顔がいつもの俯き加減に戻っていく。
「なるほど。
ヴェルディが精霊族の波長に多少対処できるなら凄く助かる。
(俺にとっては嫌いな波長だし)」
「精霊族の波長って澄んでるから…他の種族より分かりやすい」
「そうなのか…。俺も見てみたいのに波長さえも感じられん」
この3人の中でおそらく最も精霊族を見てみたいのがティムで、波長を捉えやすいというのがヴェルディ、そしてできることなら波長・気配すらも感じ取りたくないほど精霊嫌いの俺…、うん、ある意味バランスは良い、はず。
「今回の任務に関してはこの3人が軸になる。
何かあればどんな小さなことでも共有しよう」
「そうだね…、明日の護衛班は私も入ってるから、こっちのことは先輩方と私に任せて」
「んじゃあ明日の護衛班はヴェルディに任せる。何かあれば
こっちはまずダマジカ族とエルフ族の生態についての情報収集だな」
「了解したわ。
さて、明日のことも話し合えたことだし、私はこれで上がるね」
「おう、じゃあ明日、よろしくな」
その後、ヴェルディが食堂から出ていくのを見送って俺とティムは夕餉を取るためにマーガレットの店へと歩を進めた。
〈世界の端〉
-??-
『…南に放った同胞の気配が途絶えた』
『南…、ということは風の大地ですな。
あの辺りに勇者がいると聞いたことがあるが、まさかその者が?』
暗く、光が一切入り込むことのないこの暗闇の中。
我らの主__は同胞の消滅を悲しんでおられる、ように見える。
見える、というのは声色だけで判断しているために、表情が分からないからだ。
そもそも、我らは実体を持たぬ生き物。
お互いの姿も、何かに憑依・または創造しなければ確認できない。
我らには独特の波長があり、それで会話することができる。
この波長は精霊族だろうが、四大精霊だろうが、聞きとることは難しい。
過去に話が通じた者達もいたが、彼奴らとはどうも気が合わぬ。
この世など、ただ壊してしまえばよいものを…。
『いや、聞いたところによると現代の勇者はひよっこ同然らしい。
…そういえば、南には勇者より厄介な騎士団があるとの話もあるぞ』
(おそらく)私の横にいるであろう、私と同じく主の目の前にいる者が右から順に口を出すが、主は始めに言葉を発したのみで他の者達は口を出さず、そこにいるだけ。
『騎士団…とな?』
『私も聞いたことがあるぞ…!
南にはドラゴンを使役し、操るニンゲン共がいるとか』
ドラゴンか…、確かにそれはニンゲンの勇者より厄介だな。
ドラゴンは我らと波長が似ているのか、会話が可能であるが奴らの根本は〈闇〉の魔族であり、はるか昔から我らとは対立してきた。
あの魔王の爺さんはどこかが気に入らんのだ。
……私の私情は置いといて、兎に角我らは魔族とは相性が悪い。
『しかしドラゴン遣いと言えど、所詮はニンゲン。
弱く脆いものだ。頭は手古摺るかもしれないが、特に目立って面倒なやつはいないだろう』
と、ここで主の口から声が漏れた。
『…ちょっと待つのだ。
油断は禁物である。
そこのオマエ、ちょっと見に行ってくるのだ』
おそらく主は指名しているのだろうが…、
『申し訳ありません、主。
そこのオマエ、とは誰のことでしょうか?』
今度から主専用の依代を用意しておかねばならぬな…。
『じゃあ今発言した者』
今発言した者っていうと、
私か。
『…御意。
では南の地へ赴き、脅威と成り得そうな人物について調査に行って参ります』
『うむ、任せたぞ』
暗闇から出て、偶々そこに通りかかった蝙蝠に憑依すると、そのまま南の地へと飛び出した。流石に地面伝いで行くには時間と労力がかかりすぎる。
(やっぱり依代は必要だな…。不便極まりない)
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