第37話 土竜の長男
-Will-
山の表からは入れないと判断したエドワードさんと共に山の裏側にやってきた僕らは、エドワードさんの知り合いだという土竜の一家を探すことに。
土竜なんて小さな魔物を食べている種類しかいないと思っていたけれど、この目の前に姿を現した土竜は苔を食べているという。
小さい魔物を主食とする土竜は体長30cm未満であると言われているが、この苔を主食とするタイプは胴が長く、目測では1m弱と言ったところか。
苔を食べる割には体が大きいようだ。また、地面を掘るため前足には頑丈な爪を持ち、4足歩行でもあるようだがケット・シーのように今は後ろ足のみで立っている。
しかし…本当、世界はまだまだ広いし僕の知らないことばかりだなぁ…。
「あれ、よく見たら君、アスアさんじゃないね。
顔はよく似てるから長男のユス君かな?」
「あれっ!気付かれてしまいましたか~!流石ですね!
そうです、ボクがアスアの息子のユスです。
ちょっと父さん今動けなくて…。何か御用ですか?」
「動けない?どうした?」
どうやらお目当てのアスアさんじゃないみたいだ。
長男のユズ?…あ、ユス君か。
「土竜の寿命はおよそ100年。でもユス君を見る限りではまだ寿命じゃなさそう…」
後ろに立つパンジーが考え込むように顎に手を当てて言った。
パンジーは魔獣の生態について良く学んでいて僕よりずっと詳しいから、この大陸にいる魔物のことなら大概は知っていると言う。
「アスアさんは?今どうしているんだ?」
「父さんなら今森の泉にいるはずです…」
「泉?精霊族のテリトリーの?…なんだってそんなところに」
どうやらアスアさんは精霊族の領域の泉にいるみたいだ。
あの泉は普段人間が入れないように魔障壁が展開しているらしく、此処に生息する魔獣がいないと泉に辿り着くことは不可能と言われている。
「実はつい先日、この南東の山の地下から禍々しいオーラが流れてきたんです。
父さんはそのオーラがする場所へ近づいていったのですが…」
「…もしかして、魔力を吸われて動けなくなってしまった、とか?」
それは数時間前にエヴァンさんが突き止めた事実。
黒い何かに触れた者の魔力を吸い込む、というもの。
人間以外にも触れてしまえば同じことなのだろうか…。
「そ、そうです!エドの兄ちゃん、どうしてそれを?」
「そうか…。実は今その黒いモノについて魔王が絡んでいるんじゃないかってことで、ユス君も言っていたオーラを追いかけてきたんだ」
「そういうことなんですね…。
お願いします!父さんを助けて下さい!」
ユス君は背筋をピンと立てて、それから深々と頭を下げた。
「ユス君、アスアさんのところへ連れて行ってくれるかい?
もしかしたら回復魔法が効くかもしれない。パンジーちゃん、試してみてくれる?」
「…できる限りのことはしてみます!」
「まだ確実な方法とは言えないけれど、試せることは試してみよう。
まずは、アスアさんの状態を把握することからだな」
エドワードさんがユス君の頭をゆっくりと撫で、顔を上げるように言った。
「ありがとう、エドの兄ちゃん!それから後ろの兄ちゃんと姉ちゃんも!」
先ほどまで涙で潤んでいた瞳はなく、出会った最初の頃のようなキリリとした瞳のユス君は、穴に向かって「泉へ行ってくる」と叫んだ。
穴の奥からは、ユス君よりも小さい、弟や妹さんだろうか、「気を付けてね」と口々に言い、見送ってくれた。
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