第34話 魔王の望み
-Edward-
改めて森の上空から下を覗き込むとあぜ道の部分だけが真っ黒になっているのがよく分かる。
ワイアットからニコラスまで縦に貫くこの道は、横断しなければ右にも、左にも進めない。
道に触れなければ問題はないが、アイビーやエヴァンのように自身の身体を持ち上げて自由に動かせる、なんていう高度な魔力の使い手でないと翼を持たない俺達は道に触れないと渡ることはできない。
敵ながら、よく考えられていると思うよ、全く。
3手に分かれた地点からとりあえずニコラスの方角にまっすぐ進むと、ある場所に行き着くことに気が付く。
後ろに座るウィル君も何かに気が付いたようで森の奥をチラチラと見ているようだ。
勇者の孫、というもんだからどんな人かと思っていたが、まだまだ旅も”初心者”と言う感じが拭い切れない。
…せっかくだからウィル君から言いだすまで待ってみるかな。
しばらく森と俺に目線を向けていた彼だが、確信を持ったようでこちらだけをまっすぐ見ている。
「あの、エドワードさん」
「ん?何だい、ウィル君」
トルマンの胴体部分に乗ったウィル君に後ろから呼ばれ、顔だけ振り返る。
「あんまり僕は悪いもののオーラとかまだはっきり感じられるほど経験値を持ち合わせていませんが、なんだか森の奥の山から重苦しい感じがします…」
「そう。ちなみにどの方角からかわかる?」
「方角までは…わかりません。…エドワードさんはどの山かわかるんですか!?」
嗚呼。ニッと笑ってトルマンへ指示を出す。
どの山か。その答えは南東。
ニコラスからずっと続く森は上空から見ると半円型に広がっている。
ま、空気は良いわ、水は綺麗だわ、精霊はいるわで緑の成長スピードがすごいもんだから、東西の方角に森が広まってるとかいう報告も最近聞くもんだから、面積の詳細はわからないけどな。
そんで、俺たちが今いるのはワイアットからニコラスへ続く南の道。
アイビーとエヴァンは木々に隠れてしまって姿は見えないが、何の連絡もないことからそう遠くには行っていないだろう。
「とりあえず南東方向の山の麓で降りよう」
エヴァンたちへの連絡はそれからだ。
-Evan-
3人と別れた後、俺とアイビーは地面スレスレまで下降して調査を行っていた。
「ちなみにこの黒いヤツってどれくらい深いんだろうな」
「そんなこと俺にはわからん!なんなら掘るか?」
とまぁまぁしょうもない話をしながらオーラが強く漂ってくる方角と周囲の獣たちの気配を探っていた。
「しかし…森の奥に入れば入る程獣が出てこないな…。皆、巣に戻ってるのか?」
いつもならそこかしこに小さい魔獣も大きい魔獣もそれぞれ単体、もしくは群れでヒトの前に姿を現すという。
肉食の魔獣もいれば草食の魔獣も存在するのがこの森の特徴の一つでもあり、この森を
「静かすぎて逆に怖いな…」
「…アイビーも怖いとか思うんだな」
「思うわ!
エヴは俺のことなんだと思ってんだよ」
「ん?底なしの太陽みたいな?アイビー一人で賑やかだよな。
…っていうかエヴ?って何、」
「エヴァンってエドワードさんより名前短いけど、お前と動くことも多いし、何かの時のために短く呼んでみたら思いの外しっくり」
エヴ、ねぇ…。なんか、うん、何かなぁ…。
騎士団に入る前は『打倒勇者!』って思って魔界を旅立ってきた。
今でも『勇者なんて消えればいい』って思ってる。
だけど、思いの外ヒトの世界に馴染んできてる俺がいる。
ティムに、エドワードに、アイビーに出会って。
愛称なんてつけられたらさ、
力でねじ伏せるって言ったって、
情が湧いちゃうだろ?
今は魔王捜索・討伐って(かなり)どうでもいい任務で動いてるけど、もし万が一、父上に、魔族、
でも、
できればそんなことになってほしくないと思い始めてる俺がいて、争うことなく均衡を保ち、ヒトも俺たち魔族も混濁した世界になることを、俺は望んでいる。
「俺がエヴならお前はアイか?女みたいだな!」
「う、うるさいなぁ!」
俺は良いんだよ、元から3文字だし。
と、底なしの太陽みたいに一人でも賑やかな(煩い)アイビーは屈託なく笑う。
俺には、このどうしようもなく、しょうもないことを話しているこの時間が案外心地よくて。
(偽物の)魔王のおかげで得た心地よさだけど、失いたくなくて。
できることならのんびり経験値を積んで、ヒトの世界でも生きてみたいんだ。
魔族の敵だと、ヒトに良い奴なんていないだろうって思って家を出た。
だけど、偶々入った騎士団でそうでもないことがわかったんだから、
よくわからない奴らに、ヒトの勘違いでも魔王がそんなものだと思われ続けるのも嫌だし、心地いい
「ぶっ潰すぞ。あのよくわからん奴ら」
魔王直々に遊んでやるよ。
「今更何言ってんだ、エヴ。本気でやるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます