第32話 2人でこその剣



《深緑のディフォル


 南のフィールドに位置するこの森は名の通り深い緑で覆われている。

 体長3m級のドラゴンがやっと隠れられるほど背の高い木々に囲まれ、獰猛指定のウルフをはじめ、集団で狩りを行うエルフ族、澄んだ泉と泉に住まう精霊、小人族、広く広大な森で生きるため発達したと思われる長い耳と鋭い嗅覚をもった魔獣たちが地の中、水の中、洞窟の至る所で生を営んでいる。



-Evan-


 

 あの任務以来初めて踏み込んだ森の中は以前に比べて息が詰まるような気配が森の奥から漂っているようだった。…ウィルとパンジーは特には気づいていなさそうだが。



「そういえば…、エヴァンさんたちがその特異生物イレギュラーに遭遇したのはどのあたりだったんですか?」


 

 ワイアット側の入り口からとりあえず道なりに奴と遭遇した並木道まで歩いていく。ルイスは俺達の後ろを、トルマンは前に、シバは森の上空から、俺たちについてきてもらっている。


「中腹くらいだったか」


「そうですね、ワイアットとニコラスのちょうど真ん中くらいだった気がします」



 以前奴を発見した場所まではもう少し距離があるが、俺の前を歩くトルマンが立ち止まった。トルマンの背で前が見えないため、”どうしました?”とウィルがトルマンの側面から前を覗き見た。


「これは…一体どうなって…」



 俺たちの見つめるその先は、道という道がなくなっていた。

というのも、これまであるいてきたあぜ道とは真反対程に黒くなった道が続いていた。それが土なのか、何なのかは触れてみないことにはわからない。



「俺たちが歩いてきたのはいつもと同じあぜ道。だが、捕獲ポイントまで残り2、3mのここからこの黒い道に変わっている…。

この黒いのはいったい何なんだ…?」


 エドも同じことを思ったようで、俺のほうを一度振り向くと、俺に道を譲った。



「エ、エヴァンさん!?危ないですよ!」


 その譲られた道を進み、黒い道へと近づく俺に初めてパンジーが声を上げた。


「大丈夫だ。エヴァンは〈地〉の魔力も併せ持つ。地面のことは〈地〉属性に任せた方が安全なことが多いのさ。

…エヴァン、どうだ」


 俺が答えるより先にエドからパンジーとウィルへ補足が入った。

俺は〈地〉と〈風〉、それから〈闇〉を魔力を有している。この黒い何かから、”何か良くない気配”がしてきている以上、ただのヒトが近づくより俺が近づいた方がまだ安全だ。


「この黒い道からは砂や土といった、俺たちが立ってるあぜ道の成分は感じられません。…少し下がっててください。手っ取り早く、地面を割ってみましょう」


 地面を割る、と聞いてトルマンもエドも皆、数m後方へと下がり、代わりにルイスが俺の横に立った。



『何か良くないモノの気配がしますね。…エヴァン様だけに危険な役目はさせませんよ。いざというときは私があなた様の盾となり、つるぎとなるのです』


 ルイスは〈風〉と〈炎〉、〈闇〉の魔力を有するドラゴンだ。

魔力の使い方次第では言った通り、盾にも剣にもなるだろう、が、ドラゴンは共に戦ってこその剣。一人で戦わせるようなこと、俺はしたくない。


「…盾であり、剣であるが俺と闘ってこそ、剣となる。覚えておけよ?

ルイス、お前は万が一のため〈風〉と〈炎〉の魔力壁を俺たちに展開してくれ」


『…承知いたしました。エヴァン様の仰せの通りに』


 俺達を囲うように球状の魔力壁の展開を終えたところで、〈地〉の魔力を発動させ、目の前の地面を持ち上げ、手を伸ばした。








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