第25話 故郷は



 -Luis-



 『と、すると下界で生まれた突然変異種か、ヒトが作り出したモノがどちらかでしょうか』


 再びニコラスという街へ向かう道中、エヴァン様は私に命を出した。

風の便りで魔界の様子を探ること、それが今のめいですがニコラス上空を飛び回りながら周囲の警備を続けている。


前も言った通り、騎士団のドラゴンたちはほとんどが先代魔王様の部隊の者たち。

エヴァン様が動かれるより私の方が動きやすいのもまた事実。


ですが今私の前を飛んでいるドラゴンはどうでしょうか…。

ほとんどが魔界出身とはいえ、中にはヒトの世しか知らない者もいるとトルマンは言っていましたし。



『あの、私はルイスという者です。…あなたは?』


 エメラルドグリーンの翼の綺麗なドラゴンはゆっくりと後ろを振り返った。


『…オマエは今回の騒動ガ魔王の仕業だって思っているカ?』


『そういうあなたはどうなんですか』


 

少し苛ついて質問を質問で返してしまいましたが、魔王様の仕業ですって?そんなことある訳がないじゃないですか。

先代様はともかく、エヴァン様は何もしていない。


『オレはヒトの世で育ったガ、生まれは魔界ダ。デも生まれてすぐヒトの世に連れて行かれタ。…オレは、叶うナら、魔界にかえりタい』



 ドラゴンに涙という概念はない。涙を流すのはヒトだけだと、誰かが言った。

けれど私たちドラゴンだって”悲しい”、”寂しい”という気持ちは持ち合わせている。


『私は魔界生まれの、次期魔王様お付きの者です。

…次期魔王様の命で魔界に風の便りを飛ばすことが私の今の仕事ですが、もしよかったら魔界へ行きませんか、私と』


帰りたいなら帰ればいいと思うかもしれませんが、魔界に入ることができるのは全てのドラゴンではないのです。


魔界に生まれたものには〈闇〉の魔力も体内に宿りますが、外から魔界に入るにはその〈闇〉の魔力を解放できなければ入り口さえも見えない。


解放の条件は2つ。

1つは魔界の空気に体が慣れること。これは魔獣も魔人族も同じこと。慣れることで体内の魔力が育つのです。

2つ目は生まれてすぐは親から〈闇〉の魔力を分けてもらい、体内にその力を溜めること。


2つの条件が整い、自らの意志で〈闇〉の魔力が使えるようになることで、解放されたことを意味します。


ですがこのドラゴンが生まれてすぐにヒトの世に渡ったのなら、〈闇〉の魔力が解放されていないことになる。

だから幾ら帰りたくても帰れない。


『魔界に、帰れるのカ…?』


『これでも私は魔王様のお付きですからね。解放できるだけの魔力を分け与えることもできます。…どうしますか?』


『今回の騒ぎガ落ち着いタら、連れて行ってくれるカ?』


『えぇ、お安い御用ですよ!』


 目の前のドラゴンは涙は流さないものの、その大きな瞳は潤んでいるようだった。


『ありガとう。

オレはシバ。よろしくな、ルイス』




 その後シバは主人から笛が鳴らされたとかでニコラスの入り口の方向へ向かっていった。


『なるほど、ヒトは私たちを呼ぶのに笛というモノを使わねばならないのですね。

あれでは敵に位置を知らせているようなものですねぇ。ま、所詮はヒトですから、言っても仕方がありませんね』



 私たち魔族の連絡手段は風ですから、敵に位置を知られることもありません。


 さて、そろそろ魔界へ便りを送らねば!

エヴァン様も知らせを待っているに違いありません。


空のさらに上を見上げて、

音のない咆哮に、便りを乗せて魔界へ飛ばす。たった、これだけ。


今回はだれに送りましょうか…。

久しぶりに、父様に送ってみるのもいいですねぇ。


風の便り、父様に。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る