第24話 とばっちり
-Evan-
「実は朝から任務でニコラスに来ていたんだが、そのとき良い宿屋を見つけたんだ。しばらくの寝床はそこでいいか?」
城を出て市場の方向へと足を向けている。
騎士団が注意喚起を行ったおかげで街中でも歩いているヒトの数はだいぶ少なくなっているようだ。街中の微妙な居心地の悪さはそのままだが。
「あぁ、そこでいいよ。とりあえず俺腹が減ったからちょっと早いけど飯にしないか?」
「俺も腹が空いたし、そうするか」
あの煉瓦造りの宿屋兼酒場の前まで着くと、店内が異様に騒がしいことに気が付く。いや、酒場なんてこれくらいか?その割には笑い声よりえらく真剣そうな声が響いている。
「なんだ?酒場ってもっとにぎやかな雰囲気じゃなかったか?」
木製の扉を手前に引くと店の一番奥の席でヒトが集まっていた。
どうやらその中心にいるのはあの二人組らしい。
「えっとー…、その真ん中にいるのはウィル、とパンジーだよな?」
するとヒト混みをかき分けて入り口までやってきた少年はやはりウィルだった。
「エヴァンさん!?いいところに!僕らあなたを待ってたんですよ!」
「え、そんなに?」
俺とアイビーの片腕をそれぞれ掴んで店の奥へと引っ張られる。
「この方がさっき言ってた先日入団されたエヴァンさんです。
…あれ、隣の団員さんはもしかすると、アイジーさん…でしたっけ?」
今の今まで俺に向いていた視線が途端にアイビーに向く。
「…惜しい!俺はアイジーじゃなくてアイビー。そんで中級だ」
「え、あ、すみません!?あ、でも中級の方、ということは今外で何が起こっているのか詳しくご存じなんじゃ…?」
”外で起こっていること”
やはり詳細を告げずにただ”街から出るな”なんて言われたら色々考えるよなー。
「…どうせこの様子じゃ簡単に言っても納得しなさそうだな。
どうする?アイビー」
「俺の権限じゃ何とも…。ただ言えるとしたら、各地で謎の生物が発生していて、その調査中ってことぐらいだな。いったいどうして突然出現したのかまだなんにもわかってないんだ」
住人が変な誤解をしないように店内中に聞こえるように声を張る。
「どうして、か。なぁエヴァン、”魔王”からの攻撃ってことは考えられないか?」
「魔王?どうしてまた?」
実際俺は何にもしてないしな。俺のほうこそ出所が知りたいくらいだよ。
「なるほど、魔王か…。その線もないとは言い切れないな。ウィル、といったか?
君はどうして文献上でしか存在しない魔王だなんて思うんだ?」
「…僕の祖父は100年前に魔界に攻め入ったのは所謂勇者と呼ばれる人でした。
祖父の日記には、人間界に進軍してきたのは魔王と人間界には存在しないはずの生物であったと記されています。
謎の生物、ということはこの世界には存在するはずのない生物だってことでしょう?」
その日記にも実際ウィルの言う通り、謎の生物が城下町を襲ってきたことが記されていた。魔王の俺からすればその話が本当かどうかわかってしまうことだが、ここで俺が知っていたら話がややこしくなる、と思い黙る。
「…その可能性も拭いきれない、か。俺は一度この話を騎士団本部へ知らせてくる。何かあってからでは遅いからな。…エヴァンはこのままここに残っててくれ。明日の昼までには戻る」
席に着くこともなくアイビーはマントを翻し、出口へと向かう。
俺が黙ってたせいもあるが、今回の異常事態がまさかの”魔王の進軍”という方向に話がまとまった。以前の魔王、つまり父様の攻撃と思いたいわけか…。
ま、あんな生物、魔界にも存在しないけどな。
今回の事態を魔界の、父様の仕業だと思い込んでいるヒトには若干の苛立ちを覚えたが、このまま泳がせておくのも面白そうだな。
この騒動に便乗して俺も経験値をためるとするかなー。
「あぁ、その間ニコラスは俺に任せろ」
だからゆっっくり、帰ってこい。
…なんてな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます