第19話 気心
「ほい、最後の木箱~」
陽の照り付ける屋外でひたすら荷台から荷物を下し、裏口までできるだけ〈風〉の呪で運ぶ作業もようやく折り返し地点。
木の実や香草なんかは重たいといってもたかが知れているから荷台から店内まで運べたが、獣入りの木箱は(運べなくもないが)疲れるので裏口まであと数メートルというところでティムにバトンタッチをすることに。
「エヴァン…腰に、腰にくるから、下に置かないでくれ」
なんとまぁヒトの腰は弱いもんかな。
「えー、重たいし、空中に留まらせるのも疲れるから荷物置いたら外出てきてよ」
作業を繰り返すうちにティムに対して立てていた壁がどこかへ行った気がする。
つまりは、仲良くなったということ。
ティムも最初こそ俺に対して「こんな奴」と思っていたらしいが、先程から言葉を交わしているうちに馴れたという。
「わかった、わかったからちょっと待て。
…よし、次持ってきてくれ」
「酒樽1樽目~」
「よし来い」
「はい、荷運びお疲れ様でした!報酬代わりに食事を提供します!」
あれから無心で運び続け、ようやく最後の酒樽を運び終えた俺たちは表から店に入り、一番奥のテーブルについた。
「エヴァンは辛いモノがいいんだっけ?お肉?ティムさんは何食べたいですか?」
一応壁にかけてあるのがメニューよ、と指さす。
肉料理が多いのか、知らなかったな。
「エヴァンも辛いモノが好きなのか!じゃあ俺も辛いの下さい。あ、あと何か甘いモノも」
一通り注文を聞くと、”じゃあ二人とも辛いお肉ね。少々お待ちを~!”と店の奥へ戻っていった。
「ティムは甘いモノ、好きなのか」
父上も甘いモノは好きだといっていたが、やはり共感できん…。
「エヴァンは食べないのか?美味いぞ?」
「甘いモノはうん、嫌いだな。あんなモン食える方がおかしい」
”お前損してるぞ”とティム。
いいんだよ、別に食べられなくても。生きていけるし、損はしてない。
それからしばらくして、アツアツのいかにも辛いという感じの赤い肉の塊”レッドブロック”2人前と、ティムの頼んでいた木の実をふんだんに使ったパイとやらがテーブルの上を占めた。
「おぉ、これはまた辛そうで美味そうだ」
「本部の食堂でもいいけど偶にはここに食べに来るかな」
来るときはティムでも誘ってくるか、なんて思っていたよりもヒトと馴れ合っている自分に吃驚だ。
さて、これ食べたら一度本部に戻ってそれから向こうに行くとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます