第17話 気配



 元の集合場所に戻ってきて数分後、ティムも戻ってきた。


「何か目立ったことはあったか?」


 俺たち二人は戻ったが、まだエドは戻ってきてはいなかったから、先程の木の実屋の裏で待つことに。


「目立ったことは特になかったな。

あるとしたら、路地奥の鉱石屋の娘に声を掛けられたことくらいかな」


「そうなのか…、お前顔良いもんな」


「んなことないさ。ティムのほうがよっぽどいい顔してると思うぞ」


 スキンヘッドのお兄さんな、精霊好きの。

ヒトは見かけによらないって本当なんだな。


 ここに来るまでの精霊についての談義のせいでか、互いに名前を明かした頃よりもずっと話しやすくなっていた。

ヒトと話してこんなに楽しいと思ったのは生まれて初めてくらいかもしれないな。



「お、またせたな。よし、任務再開だ」


 顔談義に盛り上がっていると王城から戻ってきたらしいエドが両手に何やら荷物を持って立っていた。


「エドワード、戻ってきたんですね。…ところでその荷物はなんですか?」


 麻袋いっぱいに何かが詰まっているようだ。


「あぁ、これか。

王城に挨拶と最近の街の状況はどうかと警護団へ顔を出してきたんだが、仮入団者が入ったっていう話をしたら、この街で採れた木の実を山ほど貰ったんだ」


 これは騎士団にって頂いたものだから、本部に戻ったら食堂に置いてくるさ。

と、荷台の空いたスペースに麻袋を積み終わると、正門に向かってティムが荷車を引き始めた。




「さて、と。行きに言ったように、帰りは地上を歩いて帰る。

先頭は俺とトルマン。それぞれ左右にエヴァンとティムが付いてくれ。ルイスは少し大きすぎるから後ろからついてきてくれると、獣も怯えていい牽制になるだろう」


 確かにルイスにとってみればこの荷車など小さく見えることだろう。

後方にルイスがいれば魔界の獣であればまず寄ってはこれないだろうし、下界の獣だったとしても、敵ではないな。


「と、いうことだから後ろは頼んだぞ、ルイス」


『はい、承知いたしました。背中はお任せください』



 そしてニコラス手前の高原を出発。

これより先はあの広大な森林地帯だ。敵と思えるような生き物はいないとは思うが、何かあっても困るので、気を引き締めた。




-Tim-



 ニコラス高原を出発し、荷車は森の入り口に差し掛かった。


 相変わらず、エヴァンの相棒は大きく、その存在感だけで魔獣への良いプレッシャーとなっているようで、森に入ってからも、何かの気配はするものの、飛び出しては来ず、どうやらこちらの様子を窺っているようだ。



「エヴァン、…着いてきているのはウルフ族だと思うか?」


「おそらくは。1体に対して足音は2つのようだし、おそらく4足歩行の類か2足歩行の類だが、此処ディフォルではウルフと思っていていいだろう」



 エヴァンはとても耳が良いらしく、木々の生い茂るこの森の中で俺たち以外の足音を聞き分けているようだ。良いな、その聴覚。


「やはりルイスに最後尾を歩いてもらって正解だったかもな。

ルイス自体の魔力が高いおかげで、他の低い魔獣は手を出してこれない」


 

 ひたすら森の外へと続く1本道を辿り、出口を目指す。


ルイスの体長ギリギリかという背丈の木々の間からは陽の光が零れているが、丁度日差しが遮られて心地よい。


ニコラスの地下水脈はこの森の真下を通っているらしく、その恩恵を受けてこの森はここまで葉の色が濃く、緑にとって最適な環境となっているのだろう。



「…ちょっと待ってください。右から何か来ます!」


 荷車の右に付いていたエヴァンが声を上げた。

その声に足を止め、右の方を注視すると右奥の方から何かが猛スピードで走ってくる音が聞こえた。


エヴァンは腰に掛けた剣に手を伸ばし、腰を屈め、臨戦態勢をとった。





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