第15話 手がかり足掛け


 

 ワイドベリーが食べ物を仕入れるのはいつもこの市場で、手慣れたようにエドが店が貸してくれているという荷車に商品を運び出した。



 それから指示のあった通りの数と種類を確認し、預かってきた金貨で支払いを済ませ、ひとまずは木の実やの店主に預け、街を巡回することに。


ニコラスには王族が住んでいるものの、ワイアットのような王直轄の騎士団は持っておらず、街の警備団が警備にあたっているというが、こうして何らかの任務で騎士団がやってきた時は巡回に参加するんだそうだ。


それで俺はティムとペアを組み、市場周辺を見て回っている。

エドは王城へ行くんだそうだから、半刻経ったら先ほどの木の実屋に集合となったところだ。




「ティムはワイアットよりも西から来たって言ってたけどどんなところなんだ?」


 本当に下界に何があるのか知らないし、どこの誰が勇者なのかわからないしこうやって色々な情報が得られる機会は利用しないと勿体ない。


「俺か?俺が居たのはワイアットよりずっと西の街で、この街みたいに緑が深い所じゃなくて、どちらかというと四方八方を水に囲まれたところだ。寒くも暑くもない、そんなところだ。面白味はなかったな」


「へぇ、そんなところがあるのか!俺は東から来たが小さな街で中々外には出なかったからどこに何があるのか全然知らなくてな。こうやって色々なヒトに話を聞けるのはいい機会だ」


 本当を言うと全然小さくもないし、むしろ毎日魔界中を走り回って魔獣たちと遊んでいた。こんなこと言ったら俺がヒトじゃないってバレるから言わないけど。


「そうなのか、じゃあここから手分けするか?俺は右に行くからエヴァンは左を回ってくれ。終わったらここで落ち合おう」


「了解だ。じゃあ、また後程」


 

 ティムは言った通りT字路の右手へ行き、俺は左の通路に入った。

もちろん、一番欲しい情報は”勇者”についての手がかり。




「ねぇ、そこのお兄さん、その服もしかしてワイアット騎士団の下級騎士様?」


 周りの話声に耳を傾けながら様々な鉱石に目を走らせていると後ろから若い女の声がした。


「あぁ、確かにワイアット騎士団の隊服だけど俺はまだ仮入団員なんだ。

俺はエヴァン。君は?」


 振り返るとそこにいたのはこの街の木の実で染めたという赤い衣に身を包んだ俺と同じかそれ以下の女が立っていた。


「私はこのこの鉱石を主に売ってる店の娘のリンよ。よろしくね!

見たことのない騎士様だったからつい声をかけちゃったの」


「あぁ、そうだったの。いや、構わないよ。俺も話しかけてもらえると嬉しいしね」


 鉱石屋の娘なら旅人とも話をする機会があるだろうか?

とりあえずそれとなく聞いてみるか。



「そうだ、ちょっと聞きたいんだけど、最近魔王について噂って何かある?」


「魔王?魔王ってあの魔王よね?」


「リンの知る魔王はいったい何人いるの?」


 少なくとも俺が知っているのは先代の父上と自分自身だけど。


「魔王…魔王……、あ!そういえば昨日言った酒場に魔王を探してるっていう人に会ったわよ!まだこの街に留まるって昨日言ってたからひとまずその酒場に行ってみましょ!時間ある?」


 まさかの耳寄り情報。


「その酒場遠い?…約束の半刻まではまだ時間あるけど」


「全然!ていうかもう見えてるわよ!なんたってうちの店のお向かいなんだから!」


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