第14話 ニコラス


-Edward-



 酒場を出発した俺たちはワイアットより数キロ離れた森林地帯の上空を飛行していた。

マーガレット…、先ほどの酒場の女主人である彼女は実を言うと幼なじみで、彼女の父親が店をしていたころからのお気に入りの店だ。

エヴァンも店に行ったことがあるみたいだし、エヴァンたちが下級に昇格したら昇格祝いに食べに行くとするかな。


て、まぁそのことはとりあえず置いておいて、任務に集中するとしよう。


「エヴァン、ティム、せっかくだからこの真下の森林地帯について説明するよ」


 トルマンに合図をして高度を少し下げて並列飛行に切り替える。


「まず、ワイアットから南に位置するこの森の名前は”深緑の森-ディフォル-”と呼ばれている。ここの森の木々は南にあるということからか、他よりも緑が濃いんだ。それが名前の由来と言われている。


だが、木々が深いだけあって獣たちの餌も多いということだ。


獰猛な獣も住み付いているから、護衛として食べ物や貴重な商品が他の街からやってくる時にはこの森に一番近い俺たちが警護に当たっている。


行きも帰りもドラゴンに乗せられたらいいんだけど、中にはドラゴン達の嫌がる香草が混ざっていたりするから帰りは地上を通るんだ。

それで魔獣から積み荷を守ることが今回の任務内容ね。


理解した?」


 ちょっと長ったらしい説明だったけど物わかりの良さそうなこの2人なら理解できただろう。


「はい、承知しました。

これだけ広大な森なら何がいても不思議ではないですね」


「俺も聞いたことがあります。この森のどこかに獰猛指定のウルフの巣があるとか」


「そう、わかってくれたみたいで助かるよ。お、森の先に山が見えるか?その山の麓が隣街のニコラスだ」


 ニコラスは山の麓ということで新鮮な木の実が数多くっている。

ワイアットは水が綺麗だが、その水の源泉はニコラスの山にあり、ワイアットには地下水脈を通ってやってきている。

ニコラスの水が綺麗なことは他の街でもお墨付きだ。


「よし、見えてきたことだし、このままスピードを上げて街の手前で着陸する」


『了解/しました』


 …うん、2人とも素直で助かるよ。





-Evan-



「よし、この辺りで降りるか」


 エドワードの声を合図にトルマンが高度とスピードを下げ、着陸。

それに倣って俺とティムも着陸した。



「ここから先、ドラゴンを連れて入れない。理由は、獣たちが立ち入ることによって水源に不純物が入るのではないかという王からの命令だ。

と、いうことでトルマンたちはここの守衛に預けていく」


 この辺りや護衛の獣が不用意に街中へ入らないように正門前には城直轄の守衛が立っていて、ドラゴンを含む契約獣たちは皆その守衛に預ける規則になっているらしい。



 守衛に通行証を貰い、一歩中へ入ると”ゴウッ”と強風が吹いた。


「この風は天候によるものではなくて、街自体が森になっているもんだからそこかしこに精霊たちがいてね。風の精霊たちの風によって獣の毛などを外に吐き出して水源を守っているんだ」


 と、前を歩くエドから説明が入る。


「そうですか、精霊がいるんですね。ワイアットには精霊はいませんから、一目見てみたいですね」


 すると隣でティムがわくわくした面持ちで精霊について語り出した。


「精霊っていうのは本当に綺麗な土地にしか住み付かないと言い、汚れた地にいる精霊は浄化の力を失うとも言われているようです。

精霊の姿は全ての魔力を均等に、ある一定以上の持ち主でないと映らないと言われているんですよね!」


「…ティムは精霊が好きなのか。…見た目に似合わず」


 馬鹿にしているわけではないが、体格のいい、しかもスキンヘッドでかなり男前な顔つきの男がキラキラした目をして見たこともない精霊について語り出したらびっくりするだろ。俺たちの前を歩いているエドも笑いをこらえている。


「ま、まぁ好きなモノがあるって言うのは良いことだし、鍛錬を積んでいつか精霊の姿が見られるようになるといいな!」



 茶番を織り込みながら着いたのは木の実を専門に扱う市場。隣には新鮮な肉やリーフなど木の実以外の食べ物が所狭しと並べられていた。


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