第12話 魔の契


-Evan-


 エドワードと別れた後、大樹の麓へとやってきた。

ルイスはやはりここでもひときわ目立つようで、かなり背の高い木々の中から頭が一つ飛び出ている。


「ルイス、いるか」


 森の奥へと声をかけると、できるだけ周りの木々を傷つけぬようゆっくりとした足取りで目の前にルイスが姿を現した。その後ろには竜燐が赤い竜もついてきている。


『エヴァンさま、おはようございます』


 ルイスは軽く会釈をするように頭を動かした。



「そのドラゴンがトルマンか」


 ルイスよりも少し躰の小さい赤い竜燐のドラゴンが俺と目線を合わせるように頭を下げた。


『初めましテ。ワタシはトルマンという者。先代の魔王様の命を受けて100年前カらここのヒトと契約を交わしています。

ここにいるものは大体がワタシが連れてきた戦闘部隊のドラゴン達です。

そして、世代交代がなされた今、ワタシ達はエヴァン様、アナタの部下となります』


 トルマンという名のドラゴンは長い尾を使って周りの竜について言葉を添えた。


「そうか、トルマンという名には少し聞きなれた感じがしていたが、父上直属の飛行部隊の一員でしたか。お元気そうで、何よりです」


 100年前というと俺は生まれて間もないころだが、父上に聞かされたことがある。100年前勇者が1度偵察へ魔界の城へやってきたとき、自慢の炎で追い払った者がトルマンという名であるということを。


「まさかこんなところで会えるとは…。もうルイスから聞いたかもしれんが、俺たちはこの時代の勇者を探して下界へとやってきた。仲間は数があっても損にはならない。どうか、俺に力を貸してくれないだろうか」


 いくら俺が魔王の息子で次期魔王であったとしても、相手は俺と違う力を持ち、俺よりも長く生き、様々な世界を見てきた。

頭を下げるのは当たり前だ。


ここで一番戦闘能力が低いのは俺であって、ドラゴン達のほうが鋭い爪や牙、強化された魔力をその身に宿している。

これほどまでに頼もしい仲間がいるだろうか、いないだろうな。少なくとも、今、ここには。


『エヴァン様、頭を下げられずともワタシ達は元よりそのつもりにございます。

今一度、我らと魔の契約を結びましょう…!』


 そう言って、トルマンを含む魔界出身のドラゴン達は俺を囲むように立ち、ドラゴン達の魔力の一部を俺の中に。俺の魔力の一部をそれぞれドラゴン達へ、受け渡す。


魔の契約とは、ヒトと獣が行う契約とは表と裏のように違う。


表の契約はヒトと獣が、魔族と魔獣が行えるもの。裏の契約とは、魔族と魔獣だけが行うことができ、表の契約の有無は関係がない。

つまり、表の契約が施されていたとしても魔の契約が行われている限り、俺の呪を合図に裏を優先してそのドラゴンの魔力を使うことができる。


そして、契りを交わした魔族の命が尽きれば対の魔獣はその契りから解放されるようにできている。


まぁ、俺とルイスは契約をしているわけではないが、互いが互いを信頼して契約ではない形で魔力の一部を受け渡しているから、この森を守る結界に弾かれることもない、というわけだ。



「恩に着るよ。ここでは俺は正体を隠してヒトとして紛れているが、もしなにかあれば風を送ってくれればいい。




さて、ひと段落したところでルイスとトルマン、仕事だ」











 

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