第5話 意味の無い挑発

-Luis-

 

 夜が明け、陽が上がってきた頃、ワイアット城の大門前にはドラゴンを連れたヒト、とエヴァン様と私が長蛇の列を成している。


ワイアットの城下町中からだけでなく、この日のために東や西からも多くの獣使いが集まってきているのだと、宿屋の娘は言っていた。



『証明書をどうぞ』


 並んでいるうちにエヴァン様の順が回ってきた。

首から下げられた証明書とやらを目の前に立つ大男に手渡すと代わりに何やら文字の書かれた紙片を渡し、その大男はそのまま門を潜り講堂へと進めと言った。

中は今の私からするととても広く感じられるが、本来の私の大きさでは少し窮屈そうだ。

エヴァン様は手渡された紙片を手に持ち、中にいた大男と同じ紋様のローブを纏った女と何やら話し始めた。



「…あら、先日受付に来た子ね。いつみても小さいドラゴンですこと!

こんな小さいので本当に飛べるのかしら?」


 

 どうやら私についてお話されているみたいですね…。

私だって大きな翼をもつ獣です。それにエヴァン様直属の飛行部隊でもあるのですよ!そんじゃそこいらのドラゴンと比べられては私も怒りますよ!本当にもう、このヒトは好きになれません!



「…見た目だけで実力も見ずに物事を判断するとは、あまりたいした騎士団では無いってことですかね。ルイスは訳≪ワケ≫があってこの姿をしているだけというのに。ルイスを侮辱するならば俺は容赦はしませんよ」


 エヴァン様はいつもの真顔ではなく、冷えた笑みを浮かべていらっしゃる。

お怒りになっているときこそエヴァン様は笑うのです。

…私は知りませんよ、エヴァン様が何をしても。


「ま、どうせアナタこそ大したことはないんでしょうし、せいぜい頑張りなさいよ。団長がアナタのような獣使いに合格を言い渡すとは到底考えられないけど!」


 と言い放ち、女はローブを翻し講堂の奥へと去っていかれました。

女がいなくなってもエヴァン様はというと相変わらず冷えた笑みを浮かべたご様子ではありますが、下界に降りられてから久しぶりに感情をはっきりとお出しになっておられました。


 そう、エヴァン様はとても仲間思いのお方なのです。

私のような獣にもお優しい所はエヴァン様が幼いころから何一つ変わっておられない。私が垂直飛行に失敗して地面に落下した時も、覚えたての回復魔術で傷を塞いで下さいました。


エヴァン様は魔王様でありながら冷酷非道、ではなく獣にも魔族の民にもとてもお優しい方なのです。お怒りになられるとまぁ、かなり、怖い方ではありますが、それは流石先代魔王様のご子息様ですね。静かに怒られる方が恐ろしいものですよ。


…ともかく私はエヴァン様の手足となり盾となり共にありたいと、常々思っているのです。このような人間にエヴァン様が屈するはずがありませんが、いざというときは私はご容赦致しません。


 

「ルイス、わかっているとは思うけど、ヒトが言うようなことは何一つ俺たちは気にする必要はない。だがお前の本来の力を奴らに見せてやれ。お前ならできる。なにせ、城一番の屈強なドラゴンよりもお前を選んだのだからな」


 『勿論です』と、声には出さないがエヴァン様のお言葉にこたえるように”キュウ”と一言だけ鳴き、恐れ多いがエヴァン様の肩に乗った。


そして、


「ルイス、喜べ。どうやら試験内容は、俺とお前の得意分野のようだ」


 講堂の一番奥”飛行レース”という文字が浮かび上がった。

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