第3話 エルフの酒場



 《宿屋 ワイドベリー》



 「何か辛い料理くださーい」


 証明書を無事手にし、市場をぐるっと一周したところで、明かりの漏れる酒場と一緒になった宿屋を発見し、現在夕餉の最中。


 甘いと辛いではどっちが良いかというと俺は断然辛いもの。

父上はあり得ないくらいの甘さがちょうどいいと50年くらい前に言っていた気がするが、そんなものを食する父上の気が知れない。


「はいよー、お待ち!」


 ルイスは言わずもがな、掌サイズのままである。

でっかい姿だと食費が馬鹿にならんが、このサイズなら半人前で十分だな。

どうせならずっとこのままにしておくべきか…。


『エヴァン様、あくまで私は飛行部隊のドラゴンですからね。

お城に戻ったら絶対元の大きさに戻してくださいよ』


「…考えとくよ」


『嫌な予感しかしませんね。…はぁ』



 これだけ賑やかな酒場であれば、少し小声で話そうが誰も聞いちゃいない。

俺とルイスが話していようが誰も気にも留めない。


「お待たせしました。ワイアット名物、レッドブロックです。

おチビなドラゴン君にはこちらの木の実をサービスです!」


 エルフ族だろうか。ヒトよりも長く尖った耳の娘が運んできた名の通り真っ赤な肉の塊。この店からのサービスだという木の実の盛り合わせ。ご丁寧に皮を綺麗に剥かれ、ブロック状に刻まれていた。


「にしてもお兄さんのドラゴン君、ちっちゃいですね~。

あ、その首から下げてるのってワイアット騎士団の入団試験の証明書ですよね?

明日頑張ってくださいね!」

「あぁ、ありがとう。その入団試験だけど、どんな試験内容か知ってる?」


 酒場でもあるこの場所ならば色々な情報が交錯するだろうと思い、早速情報収集に取り掛かる。

情報はあるだけ損にはならないからな。


「そうですね~。わたしは受けたことはないのでそんなに詳しくはないんですけど、前回はそれぞれのドラゴンの属性を生かして現団員さんと一騎打ち…だったような気がします」

ドラゴンの属性ね…。それはそれで面白そうだな」

「それでね、これは毎年なんだけど、街の住人でも旅商人でもその試合を観覧することができるのよ!まぁ、わたしはお店があるから行けないんだけどね」


 話し込むうちにウェイターだったはずのエルフの娘は空いた椅子に腰かけ、仕事そっちのけで機嫌良さげに喋り出した。


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