第2話 ワイアット騎士団


-Evan-


 

『ところでエヴァン様、いきなり下界などに降りて行く宛てでもあるんですか?』



 俺が新魔王になったあの日に大人サイズに成長したドラゴン、ルイスを引き連れ適当に降りた先の森を歩いていた。

こんな森の中にでっかいルイスを歩かせるわけにもいかないので掌サイズに変化させてはいるが、流石上級魔族ともいうべきか、ちゃんと人語を話す。

ちなみにヒトはドラゴンといえば魔王、なんぞと言うが実際ヒトにも魔獣使いなるものがいるらしい。


「特にない」

『ないんですか…。あ、あれ街じゃないですか?』


 ルイスの指さす方向には確かに街があった。

街には場所にもよるが大体なんでもあるという。

ひとまずヒトに紛れるためにこの辺のヒトが着ている服を調達しようか。


「ルイス、あの街へ行くか。ひとまずヒトに紛れる」

『承知しました。私はこのままで良いのですか?』

「まぁ隠すようなものでもないし、堂々としていればいいが喋るな」

『あ、はい。じゃあ鳴きます…』



 

 この街はワイアットという名らしい。そこかしこに湧水があるらしく、どちらかというと栄えた街並みのようだ。



「お、お兄さんドラゴンを連れているのか。じゃあ王直轄の騎士団に入団希望?」

「王直轄の騎士団、とはなんだ?」


 「あれ、もしかして知らないかい?」

と、木の実を山ほどに積んで売っている気の良さそうな婦人が声をかけてきた。


「この城下町にはワイアット騎士団っていうドラゴンと主に契約をしていれば誰でも入団試験を受けることができる騎士団があるのさ。

お兄さんが小さいけどドラゴンを連れていたから入団試験を受けにこの街に来たのかと思ったよ」


 なるほど、騎士団か…。

経験値を積むにはうってつけの場かもしれないな。

よし、入るか。


「入団試験を受けるならこのまま坂をまっすぐ上って城の入り口にいる団員に声をかけるといいさ。なぁに、きっとお兄さんなら強そうだし受かるよ」


 「じゃあこれ持っていきな」と気の良い夫人は赤い木の実を3つほど布に包んでくれた。

こんなヒトもいるのかと、ちゃんとお礼を言って坂の頂上を目指した。




「お、ここだな。ワイアット城というのは」


 城の周りに川が流れ、城の大扉へと続く道へは石造りの橋がかけられている。

そして大扉の前には翡翠色のような美しい尾のドラゴンを連れた女性の団員とかいうのが立っていた。



「入団希望者?書類にサインする前にアナタのドラゴンを見せて頂戴」


 ドラゴンと契約した者のみが集まる団と聞いた通り、受験資格にドラゴンを見せろと言ってきた。

ルイスとは契約しているわけではないが掌サイズのルイスを突き出した。


 因みにヒトが契約するドラゴンは大方、魔族産で大体は城の竜(ドラゴン)の友人の子孫だったり親戚だったりするが、もちろんヒトはそんなこと知ったこっちゃない。

なんでかって言うと、そもそもドラゴンを卸しているのはヒトに扮した俺たち魔族だからな。


「あら、随分と小さいドラゴンね。なんていう種類?」

「そんなことより、これで入団試験は受けられるんだよね?」

「質問を質問で返されるとは…。まぁいいわ。そんな小さいドラゴンで試験を受けたところで落ちるでしょうけど。ここは通してあげる」


 渋々、といった様子で証明書を貰った。

…お前よりずっと俺のほうが生きてるんだけどな、とは思ったが口には出さない、出さない。あくまで、あくまでも、俺はヒトで、人当たりの良さそうな18歳だ。


「試験は明日の正午。この城の講堂に集合よ。その証明書代わりのペンダントを忘れないことね」

「そう、わかった。また来る」



 ふむ、明日の正午というならほぼ一日時間が空いたわけだし、それならさっさと服を買いに行って宿でも探すとするかなー。





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