第1話 行方知れずの魔王


 『父上が先代勇者を倒したのはほんの200年前だったけど、ヒトって100年も生きないらしくて、今の勇者が誰だか俺も父上も全く知らないんだよねー。

魔王って言ったって、頭に角が生えてるわけでもないし、でっかい杖を持ってるわけでもないし、勇者も俺らの姿は知らないはずなんだよね。しかも俺まだ100歳ちょっとだし、ヒトでいうとこの見た目だと18歳前後なんじゃない?間違って魔力を使わない限りバレなさそうだから、ちょっと下界に行ってヒトを倒して来ようと思います』


 という手紙を置いて息子はこの城から旅立った。


「ま、魔王様、王子が下界に旅立ってしまいました…いかがいたしましょうか」

「どうするも何も…修行だって言うなら放っておくべきじゃろ」


 つい先日、儂が400年務めた魔王を引退し、息子のエヴァンに魔王の座を譲り渡したところだったのだが…。

世代交代して早々に下界に降りてしまったわい。


「エヴァンは一人で行ったのか?」

「いえ、どうも先日大人に成長した飛行用竜ドラゴンを連れて言った模様です」


 一人ではないならまぁ…。


「うむ、やはり何かしらの連絡があるまで放っておけばよい」



 魔王の名に恥じぬ魔王になって戻ってくるのであればそれで良いよい。



 

-Evan-


 唐突に城を飛び出した。

飛び出した理由は勇者で言うとこのレベル1だと流石に申し訳ないし、それに魔王になるならそれ相応の力が必要だと思ったから。


何故なら魔族が力を持つに対抗してヒトも力を持った。俺が生まれる何百年も前からヒトと魔族の間で争いは絶えない。

しかし、争うことなく均衡を保ち、ヒトも俺たち魔族も混濁した世界になることを俺は望んでいる。


とはいっても勇者もとい、ヒトも生きるために必死なのだと理解はしている。

何か善くないことが起きれば悪いことに押し付けたくなるのがヒトだ。


だがしかし、俺たち魔族も生きている。

生きるために俺たちだって作物を食べるし、水だって飲む。

俺たちはヒトが食べるものを食べ、生きている。


それでもヒトは俺たちよりもずっと弱く脆い生き物だ。

俺たちが存在しなければ、ヒトは争うことはないと思うのだろう。

そしてヒトは俺たちを悪とし、倒すべきだと言った。


だから俺は魔王として、魔族を守る責任がある。

そのために力をつける必要が、全てを捻じ伏せることができるくらいの力が、今の俺には必要なわけだ。


ま、実際に息の根を止めたりしないし、戦闘意欲さえ二度と湧かなくなればそれでいいから、物理的にっていうより、精神的に倒す力をつけに修行に出ることにしたんだ。

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