02-2 恋愛デスゲーム容疑者、○○プレイをご所望
そんなわけで、私は「ターゲット」を中庭に呼び出した。もう梅雨。降る直前の重苦しい雲が空を覆ってる。けど、黄金色のマリーゴールドだのなんだの、梅雨の草花が、穏やかに花を揺らしてるわ。
「午後から降るって話だったけど……」
ベンチにちょこんと座ったまま、その娘は空を見上げたわ。宇佐美かえで、神明学園学食で働いてる娘だよ。かえでちゃんの隣に私、その隣に、興味津々丸って顔のリンちゃん。
「大粒の雨で、花枯れちゃわないといいけど」
「平気だよ、こんなん。こいつらだって、自然の中でたくましく生きてるわけだろ」
リンちゃんが口を挟んだ。
「それもそうか……」
ほっと息を吐いたわ。
「でレイリィさん、お話って……」
「それはよ。おっさんの彼――」
「リンちゃんは黙ってて」
微妙な話なんだから、なんでも真正面から突っ込むリンちゃんが参入すると、ちょっと厄介だよね。
かえでちゃんは、二十歳ちょい過ぎ。学食で仲良くなって、たまーにこうして話す仲。
かえでちゃん、高校出て就職した企業がブラックで、パワハラとかもあって辞めたんだよね。そんでしばらく親元に戻って休息してたんだけど、いつまでもこれじゃダメだって、ケータリングサービスの会社に就職したんだ。料理が好きだったから。そこは事業の一環として、ここ神明学園の食堂を運営してるんだって。そんなわけで、毎日腹を減らした高校生を相手にしてるってわけ。
彼氏がいないのは確認済みなんだ。胸だって大きいし、国光くんの理想の彼女候補なんだけど、ちょっとだけ問題があってさ。他愛な話からだんだんわかってきたんだけど、けっこう闇深いというか、その……性的に。だから美人でも彼氏がいないわけだよね。
「前話したじゃん。お互い、どんな男が好みかとか」
「うん……」
思い出したのか、ちょっと頷いた。
「でもあれ、忘れてよ。その……飲んだ勢いで出ちゃっただけで、恥ずかしいし」
前、ふたりで居酒屋に行ったときに聞いたんだよ。私がニセ学生って、かえでちゃんは知ってる。だから飲んだんだけど、私、制服のまま行ったから、最初追い出されそうになってさ。……なんとかコスプレってことで許してもらったけど。
「まあ……アブノーマルだもんねえ……」
「おっ、エッチの話だな」
リンちゃん、鼻息が荒くなったわ。さすが処女なのに咥えた女。エッチの話がしたくてたまらないんだね。
「あたしの経験話してやろうか。あのな、苦いんだ」
「はい黙るー」
ごちんと、額を小突いてやったわ。
「なんだよさっきから。あたしだって話していいだろ。……てか、話すからダメなのか。んじゃあ聞くわ。エッチがアブノーマルって、お前、なにしてんだよ」
あらーまっすぐ。どうしよこれ。
「その……私、ちょっと逆ロリコンというか」
「は?」
あら。意外にも答えてるわ。実は話したいのかな。性癖のこと。
「なんだよ。小学生くらいの男が好きなのか。ショタって奴?」
「そういう意味じゃなくて。私が子供になるの」
「なんだよそれ、おっさん趣味ってことか? ならちょうどいいや。実は伊羅将のおっさ――」
「リンちゃん。ちょっと違うんだよ」
私は説明してあげた。つまりかえでちゃんは、ファザコンの一種と言うにはちょっとばかりディープな世界に憧れてる。要するに、自分が子供……というか赤ちゃんになって、男の人に世話してもらいたいという……。
「なんだあ。……もしかして赤ちゃんプ――」
「はい黙るー」
ごちん。
「いいんです。……だから私、一度も彼氏ができたことがなくて。いえ告白はいっぱいされるんですけど、試しにデートしてみると、みんな男の子って子供っぽくって……。もう無理ってなっちゃう」
そうなんだよね。告白した男は、全員討ち死に。まさに「学内恋愛デスゲーム連続殺人事件」。夢探偵レイリィにふさわしい難事件だわ。
「おっさんと付き合えばいいじゃん。……ちょうどいいし」
用心深く、リンちゃんが提案した。ようやくペースを掴んだみたいね。
「年配ともデートしたけど、うーん……結局子供っぽいし。慣れてるせいか、すぐ胸触ろうとするし」
「そりゃそうだよね。殿方だもん」
デートでこのおいしそうな胸を前にしたら、我慢できる殿方は皆無だと思うわ。物部一族なんかもおう絶対。吸い付くに決まってるもん。国光くんだろうと伊羅将くんだろうと。それじゃ彼女に嫌われちゃう。……だから戦略が必要なんだよ。
「今日話したかったのは、彼氏候補を紹介しようかなあって」
「彼氏……候補」
「うん。ちゃあんとかえでちゃんのことをわかってくれて、優しくデートしてくれる殿方」
「ほ、ホントですか」
顔が生き生きしてきた。やっぱ女の子でも、「溜まる」ってあるんだわ。
リンちゃんに放出しちゃって涙目の伊羅将くんを、またしても思い出した。ちょっとかわいそうだったわー。
「ほんとほんと」
リンちゃんが尻馬に乗る。
「もう最高のおっさんで。いくらでも胸をなめて……じゃなかった、頭をナデナデしてくれるし」
「じ、じゃあその……おしめも替えてくれるかな」
「えっ!?」
おっとー。ディープ出ちゃった。リンちゃん、目を白黒させてるし。
「それはその……」
リンちゃんの上ずった声が、低い雲に吸い込まれていく。あーあ、雨も降り出してきたわ。
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