四章
01:一枚のビラ
デニスとクレマチスの件については、アレックスの予想通り、組織犯罪課が受け持つことになった。
「姫」とされていたアンドロイドたちは全部回収され、メモリーの解析が進められることになる。
アレックスは二日で退院を許され、無事に戻ってきた。
そして、数日後。デッカード部隊には新たな人材がやってくることとなった。
「ビリー・ジェファーソンです。これからどうぞ、よろしくお願いします!」
アフリカ系の血をひく二十代の青年は、ハキハキと自己紹介を終える。彼が新しい庶務係であった。
「ビリーは警察学校を三位の成績で卒業した実力者だ。我々デッカード部隊の名に恥じない働きをしてくれるだろう」
ボスがそう言うと、ビリーは謙遜するかのように小さく首を振る。
「慣れない内は色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが……」
「大丈夫だって!お兄さんが優しく教えてあげるから」
「お、お兄さん?」
アレックスは意地悪い笑みを浮かべながらビリーの肩を叩く。
「そいつ、男なんだよ」
ノアがアレックスを指して含み笑いをする。今日のアレックスは、髪型こそショートヘアーのままだが、ばっちりとメイクを決めている。
ボスがわざとらしく咳払いをする。
「さあ、仕事に戻れ。ビリーとは面談をしたいから、着いて来い」
「はい!」
ボスとビリーが去って行き、残されたデッカード部隊の面々は、仕事ではなく世間話を始める。
「今日もアレ、やってたわね」
「アレって何だよ?」
「アンドロイド人権団体の演説よ。ビラ配ってたじゃない」
「ああ、これですか?」
サムが取り出したビラには、「アンドロイドに愛情と権利を!」という見出しが書かれている。
「サムお前、よくビラなんかもらってくるよな」
「渡してきたのが優しそうなお婆さんだったので、つい」
「よく見せてくれ」
マシューがそう言い、サムからビラを受け取る。
「アンドロイドには心がある。アンドロイドの気持ちになって考えて欲しい。よって人権を認め、瞳の色や識別番号の表示を取りやめるべき、か」
「全く、困った連中だよな」
今度はノアがビラを取り上げる。
「彼らを真の人間として取り扱うべきだ、だと。こういう奴らが、違法改造するんだよ」
「まっ、人権主義者との折衝については第四捜査室の担当だから、私たちには関係ないけどね」
アレックスの言葉に皆は頷くが、サムだけは浮かない顔をしている。
「アンドロイドに人権があるとしたら、自殺する自由も与えられているのでしょうか?」
彼はまだ、レティ――アリスのことを引きずっているらしい。そんな相方を諭すようにノアは言う。
「バカ、俺たち人間にだって、自殺する自由なんか与えられていないだろ?」
「それもそうですね。変なことを言って申し訳ありません」
そうこうしていると、ビリーが戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「あっ、丁度良かった。コーヒーの淹れ方、教えようかと思ってたのよ」
アレックスはビリーの手を取り、いそいそと給湯室へ向かって行く。そんな彼らを見て、マシューは言う。
「ソフィアが居たときも、ああだったな」
「ああ……」
「ええ、そうでしたね」
しんみりとしたムードを振り払うかのように、捜査官たちは仕事を始めることにする。
「コーヒーをお持ちしました」
ビリーはマグカップをそれぞれの机に配って行く。それから、ボスに言いつけられた仕事があるのだろう、早速自分の席のパソコンを立ち上げる。
しばらくは、事務作業に打ち込んでいた彼らだったが、ノアがいきなり立ち上がり、ビリーの机に向かう。
「はい、何でしょうか」
「お前さあ、今夜開いてる? 歓迎会しようぜ」
「それはいいですね」
サムが賛同する。アレックスとマシューもだ。
「ありがとうございます! もちろん大丈夫です!」
「でもノア、歓迎会となると、ボスもお呼びした方が良くありませんか?」
「そうだな。ボス抜きだと、後でバレたときに大変だ」
マシューに何か言いかけるノアだったが、サムの鋭い視線に気づいたのか、躊躇する。
「じゃあ、ボスが戻ってきたら俺から言うよ。それでいいだろ?」
それからボスの予定も空いていることを確認し、ノアは店の予約を取るのであった。
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