第89話 天才と武闘大会 七日目・決勝戦4
やけくそ気味に、魔力の球を打ち出す。
しかし、次々とただの魔力へと変えさせられた。
「意味が分からないわっ。アサシン、あなたおかしいわよ!!」
驚愕から、口が止まらない。
これでは詠唱を唱えられないが、それを分かっていても言わずにはいられなかった。
「ん? これはおかしいことなのかナ? でもサ、先日誰かも同じことをやっていたよネ?」
「その人のは特注のナイフなのっ! 普通のナイフとはちがうのよぉ!!」
ルカウィズルルディのことを言っているのだろうが、一緒にしてもらっては困る。
魔力の球の質も違えば、扱っているナイフの質も違う。
もちろん、私が作り与えたナイフは、そこらの鍛冶師が作ったものよりも良いに決まっている。
けれども、魔力を斬るために特化させた武器と、血肉を斬るために特化させた武器とでは根本が違うのだと、声を大にして言いたかった。
『クレアさんが絶叫しているように、アサシンさんが今行っていることは常識を突き抜けたという表現だけでは済みません。もはや異端、異常、異能。どの言葉でも言い表せないほどの、特殊な事例ですっ。魔術に少しでも理解がある人であれば、伝わるかと思いますが』
「……クレア、君はいつだってボクを驚かしてくれるよネ」
「今は私があなたに心底驚かされているけれどねっ!! 何があったのかしらっ!?」
「うん、新たな称号を手に入れたみたいだヨ。――“斬れぬモノを斬った者”だってサ」
魔力の球を作り出すことを忘れた。
「生まれて初めて、威圧の付いていない称号を手に入れたヨっ。ありがとう、クレア!」
満面の笑みを浮かべているアサシン。
友人が心底嬉しそうにしているのだ。一緒に祝ってあげたい。
――でも。
「おめでとうっ、このクソッタレー!!!」
杖を振り下す。
言い表せぬイライラをぶつけるかのように、魔法の球は一斉にアサシンへと投下された。
さすがに全部は切れなかったのだろう。
地面へと着弾した球が爆発して、土煙が巻き上がる。
『おぉ、すごい攻防でしたねっ。魔術のことはあまり詳しくないので解説はギルマスにお任せしますが、俺なんかではとてもじゃないけど目で追えませんでした。キレイだなーっという感想しか抱けないというのは、申し訳ないところですね』
『しかし、何故斬れるのでしょうか? 魔力の裂け目に刃を入れる……いえ、たとえ入ったとしても属性によって、刃ないし手が消えてなくなるはず。魔を絶つ素材で作られているわけではない。それなのに斬れた。……結果としての事実はあるのですから、その工程は証明できて当然なのです。ですから導き出せるはずで……』
『ギルマス。俺が言うのもなんですが、解説してください』
視界不良は、私にとって遮るものとなりえない。
絶叫と大量投下を行ったおかげで少しすっきりしたので、改めて詠唱する。
「
杖を振るう。
空中に花畑が点在した。
それを足場にして、空へと駆けあがる。
殺気。
身の危険を感じて、次の足場と予定していた花畑に足を付かず、前方へ魔法で風を起こす。
推力で体が後ろへと飛ばされた。
目の前をナイフが通過する。
「面白いネ。今のどうやったのかナ?」
ナイフの方向的に、一瞬前は地面にいたはずだというのに。
アサシンはすでに、花々を足場にして隣にいた。
視線が絡む。
「
触手はアサシンを拘束するべく、手を伸ばす。
華麗に避けながらも、彼はナイフを投げた。
足場は限られている。着地点も予想が立てられやすい。落下速度だって、たかが知れている。
――だから。
伸ばされた手を、避けもせずに受け入れた。
私の腕を
アサシンの想定外の方向へと体は持ち上げられ、ナイフはただ空を飛ぶ。
「
「ホント、君はボクに驚きをくれるヨ」
触手はナイフが当たらないように、私を運んだ。
移動が間に合わなさそうなときは、その手でナイフを叩き落とさせる。
――何のために空まで誘き出したと思っているのか。
「
全てはこのために。
「
私も巻き込んで、重力は明確な重さをその身に示した。
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