第88話 天才と武闘大会 七日目・決勝戦3
『握手を交わし、それぞれ開始位置に移動するようです。いっやー、それにしても、アサシンさんは意外と可愛らしい方だったのですねぇ』
『ええ。確かに以前、執務室へお招きした際もお茶菓子をとても美味しそうに食べていらっしゃいました。甘いものがお好きなのでしょうね』
『ほう! あの執務室へ招待したんですか! 理由を聞いても大丈夫ですか?』
『隠すようなことではないので。セスタもいたと思いますが。あの“血の特訓”と呼ばれているらしい、ギルへお仕置きを行った原因ですよ。ギルドカードを作成するためにいらっしゃったアサシンさんの
『ああっ! 一般人に副ギルが喧嘩を売ったという、アレですね!! へーっ、一般人ってアサシンさんのことだったんですねぇ!!』
『クレアさんも一緒にいらしてましたが。理由も聞かずに剣を向けたとのことで、ギルには少々血を流してもらいました』
『……ギルマスの“少々の血”は全然少々じゃねえんだよなぁ。耐えられるの、副ギルぐらいなんだけど』
『ギルの存在価値は頑丈さだけでしょう』
『やめてあげてください。マジで泣かれますよ』
グデルデに絡まれた際に言われた、『血の海にした』という誤解の原因はギルドマスターかもしれない。
思わず胡乱な目で解説室を見てしまった。
『ま、まぁともかくっ! アサシンさんは甘いもの好きな、優しく可愛らしいお方ということでっ。お2人の準備も整ったみたいですし、始めさせていただきますっ!』
杖を強く握る。
深呼吸をした。
『魔術を嗜む方も剣術を嗜む方も、この2人の戦い方は必ず参考になること間違いなしですっ。自身の向上のため、余すことなく盗んでくださいね! ……伝説を破り、新たな伝説となった2人。どちらが勝とうとも、それは歴史に残るでしょう。我々はそれをこの目で見ることが許された、稀有な者です。そのことを胸に刻み。これからの戦いを目に焼き付けましょうっ!』
『それではこれより、第39回武闘大会の決勝戦を行います。己が実力をいかんなく発揮してください。――決勝戦、はじめっ!』
アサシンの姿が消えた。
早速、姿を消したか。
「エンチャウント:速度上昇、物攻耐性上昇、魔攻上昇、物攻上昇」
付与魔術を唱え終わるか否かのところで、気配がした。
背後ではない。
横だ。
「さすがに背後はやめたのね、アサシン?
初動は勘で避ける。
続いて迫ったナイフは、杖と障壁で遮った。
「
私たちの間を起点に、アサシンへ向かって激流が発生する。アサシンは軽いステップでそれから完全に逃れた。
「
彼はまたも避けようとしたが、無理だ。
詠唱を唱える時間はない。
魔力の球を瞬時に作り出し、打ち付けた。
リーハラウシェよりも威力の高い音に、解説室が驚く。
『もともと普通の魔力球よりも、威力も速度も上回っていたというのにっ。さらに上がってますよねっ、あれ!?』
『常識はずれだったものが、常識を突き抜けましたね。詠唱はありませんが、中級魔術並みのものと
そう。それを何十個も、作り出して向かわせた。
色とりどりのそれは、属性に気をつけて打ち消すか、逃げ回るほかない。
加えて、瞬き程度の時間であろうと、確実に動きを止めた。
ここまですれば、一つや二つは間違いなく当てられると確信していたのに。
「……どうしてっ、どうしてナイフで切れんのよぉーっ!!」
無残にも真っ二つにされていく魔力の球に、心の底から絶叫してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます