第83話 天才と武闘大会 六日目・準決勝5

 射程内に入ったのだろう。

 ガーウィンの瞳に力がこもった。


「言葉が通じねえっていうのは残念だが、俺たちには剣がある。拳がある。……肉体で語り合おうぜ?」


 ガーウィンが満を持して剣を走らせた。すごい速度だ。

 何気なく振るわれたとは思えないほどの音で、空気が震える。


 アサシンはそれを、すらりと避けた。


 立て続けに剣は振るわれる。

 けれど、それも何にも触れることなく、虚を斬った。


『剣聖の豪剣をことごとくあしらっておりますっ。すごい、ここからでも相当な速さであるというのに、それに対応できるどころか、余裕を感じるほどだとは……』

『ですが、ガーウィンさんもまだ本気を出していないようです』


「だよなぁ。俺よりも強いをしている奴が、そうそう食らってくれるわけがねえか」


 剣を止め、一瞬タメを作る。

 それでも隙を見せないところが、剣聖たる力量か。


「《なぎ払い》っ」


 至近距離からのなぎ払い。

 普通に避けるには難しいと判断したのだろう。アサシンの唇が動く。


「……《瞬歩》」


 アサシンがガーウィンの後ろへ瞬時に回った。

 ガーウィンよりも背の低いアサシンは、彼の背に張り付くようにしてナイフを首元に当てる。

 それが喉を掻っ切る前に、ガーウィンは動いた。


「《解放》」


 ガーウィンから、大量の魔力が放出される。

 吹き飛ばされるようにして、アサシンが離れた。


 珍しいことに、彼の眼には焦りが見える。


『おおっ! 剣聖ガーウィン様の固有スキル、解放が出ました!! これはなかなか見れない代物で、敵に囲まれた際などに距離を開ける目的があるようですっ。俺も初めて見ましたよっ!!』

『他の効果としては、一時的な筋力、防御力の上昇がみられます。ですが、ガーウィンさんがそうそう使わないのは、デメリットも十分にあるためです。スキルの使用制限。これが最たるものでしょう』


「さあ。もっとだ。もっと余裕のない顔を、見せてみろよっ」


 明らかに魔力を纏う前よりも、速度が上がっている。

 金属がぶつかり合う音が幾度となくした。


 遠くから見ている私ですら、その姿を捉えられない。

 何が起こっているのか、分からないのだ。


「エンチャウント:速度上昇、視力上昇」


 私自身に付加魔術をかける。

 そうすることで、ようやく追うことが出来た。


 ガーウィンがアサシンに斬りかかっている。

 それをナイフで受け止めているアサシン。


 避けずにナイフを使っているところを見るに、余裕がないようだ。

 けれど、アサシンは笑っている・・・・・


『早いっ。もう全然追いつけません!! ギルマスは見えますか!?』

『ええ、何とか。ですが、この距離で目で追うことで精一杯となると、対峙した際に避けれそうにありませんね。ガーウィンさんの解放後の斬撃を受け止められるなど、やはりアサシンさんは相当な強者です』


 ガーウィンの剣が腕を掠った。

 血は出ていない。

 それでも、あのアサシンに一撃加えられたなど、信じられなかった。


「……ああ、本当にクレアには感謝しているヨ。楽しいネ、君もこの世界も」

「おお、アサシンも楽しいかっ。俺もスゲー楽しいぜっ!!」


 アサシンの眼に赤い光が灯る。

 威圧が上がった。


「ふっは! まだ上がるか!? いいぞ、挑戦者になったのは久しぶりだ!!」


 防戦一方だったアサシンが、攻撃へと転じる。

 付加魔術で強化してもなお、それらは目で追えなかった。


 ナイフの残像しか見えない。

 ガーウィンの服や防具が傷だらけになっていった。


 ――待って。私、次にあれと戦わなければならないの?


 喜々としてナイフを振るうアサシンに、寒気が止まらなかった。


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