第81話 天才と武闘大会 六日目・ベストエイト3


 怒り心頭なリーハラウシェは、その美貌を大きく歪ませる。


 ―ああ、そんな顔も美しい。


暴れ狂うランページ・ブ青き竜ルー・フレイム

来たれ、わキーオブ・ソロモン・が盟友ジャイアンツ


 それぞれの魔力がぶつかる。爆風で髪がたなびいた。

 竜と、巨人がぶつかり合う。

 余波が凄まじい。


『代理戦争勃発ですっ! 巨大な彼らの戦いは、圧巻であります!!』


 もちろん、彼らだけに戦わせるわけにはいかない。

 リーハラウシェが杖を振るう。空を舞い上がった。


 私も後を追うべく、地面を蹴る。


楽園を彩りし花畑ホーリーフラワーズ・オブ・エデン


 青き竜の熱気に当てられても、涼しい顔で風に揺れる花畑が空に浮かび上がった。


 風をきる音が心地よい。

 その花々と巨人を足場として駆けあがった。


 彼女が妨害のため、魔法の球を打ち出してくる。巨人を壁として防いだ。それらは巨人を削る。


『リーハラウシェさんが、自身の召喚獣に攻撃した形となりましたね』

「忌々しい……小娘がっ」

「良い盾をありがとう。降り注げ風の刃ウィング・アロー


  渦を巻く風の刃がリーハラウシェを襲った。一つでは足りないと、立て続けに唱える。


天の裁きをその身に浴びろディヴァイン・ジャッジメント!」


 杖から強力な光が発射した。風の刃と合わせて、彼女へと向かう。

 空中は横移動だけでなく、360度どこにでも逃げられるから厄介だ。


 優美な蝶のように避ける彼女が光と風に気を取られている間に、新たな魔術を繰り出す。


聖なる蔦の戒めアイビー・バインド


 足場として宙を漂っていた草花から触手が伸びる。それはリーハラウシェを拘束した。


『おおっ、触手に拘束される美女っ!! 男としては、そそられるものがありますねっ』

『セスタ、後でお話があります。執務室に来るように』


「くっ、わが盟友よ!」


 竜と相対していた巨人が、拘束を解くように触手を千切ろうとする。だが、それは許さない。


 竜が尾で巨人の足を払った。

 後ろ向きに倒れる。彼女は拘束されたままだ。


「さあ、引導を渡すわよ? 神の怒シチレーション・オブ・りと裁きの光をデヴァイン・ジャッジメント

わが身を隠せハイ・アンド・ディフレクト!!」


 空が眩い閃光を放つ。

 その光は、リーハラウシェを直撃した。一拍おいて、轟音が鳴り響く。


『クレアちゃんの攻撃ぃ! 眩しいっ、目がぁ!!』


 グデルデを裁いたその光は、かの大魔女には威力が足りなかったらしい。相当なダメージは食らっているようだが、五体満足で地に立っている。

 さすがに宙を飛ぶ力は残っていないのだろう。そのまま腰に手を伸ばそうとした。


 主が回復する時間を稼ごうと、巨人の手が伸びる。

 けれども、もともとボロボロだった身だ。竜の咆哮を受けると、ただの動かぬ山となった。


 ――好機だ。


「下僕も居なくなったわね。さあ、死になさい? ――舞い散れブラスト


 リーハラウシェを取り囲んだ竜が、花火のように爆発した。

 何にも干渉を受けない花々は、それでも静かに漂っているが、私はさすがにその影響を受ける。下からの爆風でより高く投げ出された。


『観客の皆さま、ご安心ください。結界には影響のないように配慮されていたようです。伝説の大魔女を相手に、まだ余裕があったとは驚きですね』


 ――結界には注意を払っていたが、自分が空に投げ出されるとは思わなかった。


 ようやく自由落下を始めた私に、観客が手を振る。


 ――まあ。気づかれなければ結果オーライ、だよね。


 手を振り返す代わりに、足場としていた花々を散らせる。

 爆風の余韻に乗って、それらは舞い上がった。


『ようやく目が回復して……なんとなんとなんとっ!! クレアちゃんを祝福するかのように、花々が舞い踊りますっ。天に昇る花々と、舞い降りるクレアちゃんっ! まさに絵画のようです!!』


 私が地面に降り立つころには、花も降って来ていた。そして、土煙で隠されていた魔女の姿も露わになる。


『伝説の魔女がっ、西の大魔女リーハラウシェ様がぁ!! 地に倒れている、敗れているぅ~! 何ということでしょう、何たることでしょう!!? 今、伝説が破られたぁぁ!! これは、新たな伝説の誕生だぁぁぁああ!!!!』


 歓声が轟く。

 リーハラウシェを応援していた者も、祝福してくれた。


『番狂わせっ、まさに新時代の幕開けとなったのですっ。皆さまは、伝説の生き証人なのですっ!! さあ、伝説を破り、新たな伝説となった期待の新星クレア・ジーニアス様に、今一度大きな歓声をっ』


『早急に、伝説に相応しい二つ名を贈らなければいけませんね。何はともあれ、おめでとうございます、クレアさん』


 鳴りやまない歓声と声援は、少し胸がくすぐったかった。


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