第80話 天才と武闘大会 六日目・ベストエイト2


「くっ、やすやすと攻撃させてくれるわけがないわね……」


 だからといって、しょうがないと諦めるわけにはいかない。回避させないように、2人まとめて攻撃すればいいのだ。


降り注げ風の刃ウィング・アロー

焼き払えバーン・アップ


 リーハラウシェも反撃を開始した。

 私と彼女の攻撃が交差する。


 魔攻耐性と属性耐性を上げていたおかげで、さして痛くない。

 だが、リーハラウシェは全部といかなくても、少しは食らったようだ。痛みで顔を歪ませた。


「《ワレをヨンダナ、コムスメ》」

降り注げ風の刃ウィング・アロー


 豹の姿から壮年の男の姿になる間に、もう一度魔術を叩き込む。

 手ごたえはない。炎の壁で遮られたようだ。


「そこの、わしよりも小娘であるそいつを倒せっ」

「《メイヤクのママニ》」


 召喚されきる前に倒してしまおうという、試みは失敗した。異形の者が私を捕らえ、舌なめずりをする。


雨のごとき天のディヴァイン・裁きをその身に浴びろ《ジャッジメント・レイン》!」


 空がカッと光ると、光線が降り注ぐ。


「《イキのヨイタマシイダ。コレはタノシメソウダナ》」


 かの者は光を浴びながらも、術を繰り出した。業火が場を満たす。

 熱さは感じないが、上昇させた耐性を超えてダメージが入った。


『クレアちゃんの術は、召喚獣に効いていないようです!! 反対に、炎はクレアちゃんを襲うぅ!』


 地面を蹴り、男へと向かう。


「エンチャウント:硬化」


 淡く光った杖を振り上げて、殴った。

 避けもせずに受けた男は、しかし、ビクともしない。


「《モットオドリクルエ踊り狂え》」


 赤黒いソレが目の前を埋め尽くした。熱い。

 炎が体にこびりついて、離れない。


 ――魔術は効かない。物理攻撃にも無反応。


 これだけ見ると、勝ち目は全くなさそうだ。けれど、まだ奥の手は残っている。


 炎を纏わせたまま、杖を掲げた。

 異形の者は完全に有利な立場に立っているからだろうか、面白いものを見る目でただ傍観している。

 リーハラウシェもそうだ。何もせずに眺めている。……異形の者が戦っている最中は手を出さない契約なのだろうか。


 私にとっては好都合なので、動向に注意しながら続けた。


「我に力を」


 天に供物としての魔力を打ち出す。

 それは上空で弾け、私に降り注いだ。活力のみなぎる力だ。

 それに後押しされるようにかの者を睨みつけると、高らかに宣言する。


「――悪魔よ、退けっ。『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある!」


 精錬された魔力が私を取り囲む。異形の者が目を見開いた。これこそが、ギルドマスターから教えてもらった悪魔の対処法。


「私はクレア・ジーニアス。天才の名を冠したものである。天のご助力がある限り、そなたに勝ち目などない、退けっ!!」


 喉がつぶれるのではないかと思うほどに、言い放った。


『おおっと、クレアちゃんが名乗りを上げましたね。ふんぞり返っている姿は可愛らしいですが、いま彼女は無防備となっています。大丈夫なんでしょうか?』

『悪魔は弱き心や傲慢さにより強くなります。自分に自信を持ち、堂々と言い切ることで追い払うことが出来るでしょう』


 杖を向ける。その男は明らかにひるんだ。


 ――傲慢な心が全くなくなったとは思わない。けれども、今まで積み重ねてきた努力と研鑽は裏切らないことを、私は知っている。


 だから、堂々とすればいいのだ。


「もう一度言うっ、私はクレア・ジーニアスっ! 努力と研鑽によって天才の名を手にした者である! 其方の付け入る隙などないっ、去れぇ!!!」


 杖を大きく振るう。渾身の魔力を込め、詠唱を唱えた。


範囲指定リィンジ・オブ、……地に沈めロード・アップ!!」


 男の足元に、魔法陣が現れた。それは天からの圧力を受け入れたように、かの者を飲み込む。


「待てっ、盟約は果たされておらぬ!」


 リーハラウシェが慌てる。首元にぶら下がっていた本が黒く光った。


「《メイヤクはフリコウ不履行だ。コムスメのタマシイはカエソウ》」


 異形の者が消えると同時に、リーハラウシェの本が燃えて灰になる。

 私を纏っていた炎も消えた。


 戦慄わななく彼女。地を這うような声が届く。


「――小娘っ、わしを怒らせたなぁ!!!」

「あなたの介護人にご退場願っただけよ。……さあ、第二ラウンドを始めましょう?」


 空になった回復薬を放り捨てた。


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