第77話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト8


 業火がルカウィズルルディを襲った。


 火に炙られた地面は、溶解してしまっている。

 どれほどの熱量か、それだけで分かるというものだ。


『おおっと! これは、ルカウィズルルディ様には不利な状況だ!! エルフ族は自然との融和性が高く、反対に火との相性は最悪ですっ! リーハラウシェ様は意図して火属性の召喚獣を呼び出したとみていいでしょうっ』


 異形の者はある程度火を出し終わると、これでいいかとばかりにリーハラウシェを見た。


「《メイヤク盟約はハタシタ》」

「馬鹿言え、まだ終わってないらしいぞ」


 リーハラウシェは炎を指さす。

 そこには陽炎かげろうに揺らいだ彼がいた。


「どうやってしのいだんだい?」

「植物が全て火に弱いという妄信を、なくせばいいんじゃないか?」


 火が次々と吸収されていく。

 ルカウィズルルディを覆い隠すように庇っていた細長い葉が、花開くように彼を外へ出した。


 火を食い尽くしたのは、その葉の根だったらしい。

 まだ食い足りないというように蠢いた。


 異形の者が面白いものを見つけたように笑う。


「《ジゴクのゴウカをクウカ》」


 ――この世界は実に面白い。


 そう呟いたその者はまた炎を出した。

 根は待ってましたとばかりに突き進む。


 たとえ業火であろうと、それは美味しそうに吸収していった。


『植物がっ、植物の根がぁ!! 火を消していっておりますっ、信じられるでしょうか!? 俺の見間違いですかね、ギルマスぅ~!!?』

『いえ、事実です。植物が火に耐えるどころか、食らっております。ルーカスも面白いものを使役していますね』


 ルカウィズルルディは異形の者を植物に任せて、自身はリーハラウシェへと向かう。

 ナイフを構えた。


「年寄りが出張り過ぎると、後進が育たないぞ」

「はっ、その言葉、坊主の大好きな長老へ言うがいい。わしより年寄りであろう」


 ナイフはリーハラウシェへ届かず、目の前の障壁が受け止める。


「ギルマスはいいんだっ!! 障壁シャットアウト


 障壁を障壁でかき消した。

 彼女が艶やかな笑顔でそれを受け入れる。ルカウィズルルディは忌々しげに詠唱した。


我は自然の友なりアイム・メイト我が友よマイ・メイト共に敵を滅さんディフィート・アポーメント


 ナイフが虹色に輝く。


「あの光。精霊だわ……。こっちにも精霊が居るのね」


 思わずつぶやいた。キレイだ。


 精霊は属性ごとの個性が強すぎて、一つにまとめるのは難しい。それを小さなナイフに収めるなど、不可能だと思っていたのに。


「小僧は一つのことに集中しすぎるのが欠点であるな」


 リーハラウシェが穏やかに言う。

 あの七色のナイフが触れでもすれば、簡単に体は散り散りになるだろう。そうだというのに、彼女は余裕綽々しゃくしゃくとしていた。


 ナイフが当たればいい。少し掠るだけでもいい。

 そうすれば勝てる。


 ――その自信は、自身に突き刺さる植物が否定した。


「《スコシカリョク少し火力をアゲタダケで、モエテシマッタ。ツマランナ》」


 体を貫いた先から、それは灰になる。

 ルカウィズルルディは信じられず、振り返った。


 そこには灰と化した植物と、異形の者がいた。

 彼の体から力が抜ける。


「すまない。わが友よ……」


 体に残った灰を大事そうに握った。

 リーハラウシェはそんな彼の手からナイフを抜き取って言う。


「わし自身がとどめを刺してやるのが、せめてもの情けであるぞ」


 ナイフがルカウィズルルディの身へと埋め込まれると、場が魔力の奔流で荒れた。


 会場の結界にヒビが入る。


我は自然の友なりアイム・メイト盟友なりスウァン・ヴラザー我が其方を守るようにプロテクト・ユゥ其方も我を守り給えプロテクト・ミィ


 ギルドマスターが結界を張り直す。

 それでも足りない。


 結界が揺れた。

 私は握りしめていた杖を迷いなく振るう。


範囲指定リィンジ・オブ。エンチャウント:強度上昇、属性耐性上昇、精霊属性上昇!! お願い、保ってっ!」


 張り巡らされた結界を範囲として指定し、それを付加魔術で強化する。

 ありったけの魔力を込めた。これで少しは足しになるだろう。


 横の逃げ間を無くした力は、上へと向かう。

 虹色に輝いて、それらは闇の空へと駆けて行った。


 光が収まるとそこには、荒れたフィールドと余裕然としたリーハラウシェ。


 そして見るも無残となったルカウィズルルディだけが残されていた。

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