第76話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト7
メアリーの作り出した植物の撤去が終わると、ようやく次の試合が始まる。
空はもう暗かった。
アサシンと揃って、試合を観覧室から眺めるとする。
『皆さまお待たせいたしました! 続いては本日最後の試合となります! 西の大魔女リーハラウシェ様と、聖賢ルカウィズルルディ様です!! これも見逃せない戦いですよぉ!』
『2人は前大会でも
『ええ、ええっ! お2人の勇姿はしかと覚えておりますよっ!! 剣聖ガーウィン様にはあと一歩のところで破られたのです。悔しい思いをされたでしょうっ。その雪辱を晴らす権利がこのうちの1人にしか与えられないなどっ、運命の悪戯が憎いぃ!!』
『厳正なるくじ引きで対戦相手は決めましたので、当ギルドに苦情は出さぬようお願いいたします』
『運営委員会にもやめてくださいねっ。それでは準備も整ったようですので、お呼びしましょうっ! 西の大魔女リーハラウシェ様、聖賢ルカウィズルルディ様っ、どうぞ!!』
扉が開き、選手が出てくる。
観客が二つに分かれた。男と女だ。
男性は明らかにリーハラウシェの名を呼び、女性はルカウィズルルディに黄色い悲鳴を上げる。
それほどまでに、双方共に全てのパーツの造形が整っていた。
2人が握手のために近づくと、そこだけ高名な画家が描いた絵画のように気品があふれる。
この絵、売っているのなら買いたい。飾りたい。
握手をしている絵など、国宝級ではないだろうか。
お互いに一言、「よろしく」と言い合うと、早々に離れてしまった。
ずっと眺めたかったのに。もったいない。
『おお、さすがの人気ですね。俺もリーハラウシェ様には踏まれたい。
『ほう、あなたにそんな趣味があったとは。子どもの頃から知っておりますが、初めて知りました』
『えぇー、男なら当然の心理では? しかし、魔人族であらせられる、西の大魔女リーハラウシェ様と、エルフ族であらせられるルカウィズルルディ様は共に長寿です。今までもこうして戦われることはあったのか、ギルマスはご存知ですか?』
『リーハラウシェさんはともかく、ルーカス……失礼、ルカウィズルルディさんは最近まで里に引きこもっているか、外に出たとしても図書館通いが常でした。こうして武を競い合う場にはそう立ち寄っていないかと思います。なので今回が初めてなのではないでしょうか』
『なるほどっ。そんな貴重な試合を我々は目にすることが出来るのですね!! 皆さん、準備はいいですか? 眠くても、眠っちゃダメですよっ! 怒涛の数十分間になること間違いなしです!! 高名魔術師お2人による世紀の大試合となるでしょうっ。よろしいですねっ!? それでは、西の大魔女リーハラウシェ様と聖賢ルカウィズルルディ様による、
「エルフの坊主に格の差を思い知ってもらおうじゃないか。お行き」
リーハラウシェが懐に仕舞っていた小さな杖をとると、軽く降る。
するとどうだろうか。
彼女の背後に色とりどりの球が一瞬にして現れ、それらはルカウィズルルディへと襲い掛かった。
「あれ、魔法だわっ! 魔法の球よ!!」
色が違うように、あれらはこもっている属性が違う。
魔法の球自体を作るのは簡単だが、それを一度に複数種類、大量に作り出すというのは難しい。
身を乗り出すようにして見た。
『おおっと! リーハラウシェ様は序盤から飛ばすようです!! 色とりどり球が実にキレイですが、あれの破壊力は相当のものですよぉ!!』
属性が一つ一つ違うとなると、相殺するにしてもぶつける属性に気をつけなければならない。
もし間違えば、打ち消すどころか増幅させかねないからだ。
ルカウィズルルディもそれは承知の上だろう。
ナイフを構えた。
「この程度で格の違いとは。大魔女といえど、寄る年波には勝てないか?」
そのナイフは普通のものとは違うらしい。
迫りくる球を次々とキレイに真っ二つにしていった。
行き場のなくした魔力が爆発となって場を飾る。
普通の金属では、刃が通る前に魔力や属性攻撃でダメになってしまうので特別製なのだろう。
現にナイフからは独特の魔力が渦巻いている。
「ふんっ、年寄りを敬えない小僧には説教が必要らしいな。
リーハラルシェが首から下げていた小さな本を握り、魔力を込めた。
途端に地面に巨大な魔法陣と、異形の怪物が出てくる。
「《ワレをヨンダカ、コムスメ》」
その怪物は初めは豹の姿をしていたが、次第に壮年の男となった。
だがその顔は炎のような眼を備えた恐ろしい表情をしている。
身の危険を感じて震えた。
あらかたの球を処理し終わったのだろう。ルカウィズルルディがリーハラルシェへと迫る。
「その小僧を殺せ」
「《
地を駆けるルカウィズルルディにその異形は炎を浴びせた。
『おおっ! いきなり死闘!! 世紀の大試合は誇張でもなんでもなかったぁ!!!』
『あの召喚獣は初めて見ますが、とてつもない禍々しさを感じます。あのようなものを使役しているなど聞いたこともありません。……きちんと使役できていれば良いのですが』
業火に包まれる会場に、結界があると知っていても杖を構えたくなる。
異形の者がなんだか分からなかったが、あの炎に焼かれ死ねば安寧などない。
それだけは理解できた。
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