第75話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト6
『アサシンさんが現れた!! 無傷ですっ!』
『メアリーさんも彼の攻撃を見事に避けたようですね。ですが、あれでは自らの逃げ道もふさいだ様なもの。アサシンさんには絶好のチャンスです』
裏に回ろうとするアサシンを遮るためか、メアリーは杖を突く。
「
足場とされていた地面が、針山のような形状となり、アサシンを襲った。
針の一本一本をひらりと避け斬るアサシンは、なんだかキレイである。
「
メアリーの詠唱で杖と地面が光る。
そこからツタのような植物が生えた。
ウネウネと動くそれらは、空中にいたアサシンを捕らえようと手を伸ばす。
それをナイフで切り落とし、時には足場としてひらひらと舞い踊る。
『アサシンさん、まだ余裕がありそうですねぇ。なんだか遊んでいるかのようですっ』
ツタと戯れているアサシンへ、メアリーの打撃が迫った。
彼女はツタか打撃、どちらかに注意を逸らせればと考えてのことだろうが、失策である。
アサシンはギリギリまで引いて、杖に付いてきた地面でツタを下敷きにさせた。
これで一瞬とはいえツタと地面、双方の動きが止まる。
アサシンがメアリーへとナイフを飛ばした。
杖で何とか弾くものの、手加減されたことが分かったのだろう。彼女の顔が赤く染まった。
『これは相性が悪いですね』
『相性が悪い、ですか?』
『メアリーさんの
メアリーはまたアサシンへ突進する。
「《地の鉄槌》!!」
杖の頭を地面に擦って、新たな地面を引っ張ってきた。
けれど、最初よりも量は少ない。
迫りくる杖をアサシンはナイフで受け止めた。
鈍い音がする。
およそ、メアリーのような女性が振り回している杖から出そうにない音だ。
相当な重量であろうに、アサシンは涼しい顔である。
それも
メアリーは何度も何度も杖で殴る。
その速度と練度はそこらの前衛職にも劣らぬものであったが、アサシンにとってはなんてことなさそうだ。
「何故、何故! 反撃してこないのですかっ」
アサシンと会話ができないことは事前に知っていたようだ。
だから試合中も話しかけずにいたみたいだが、それでも聞かずにはいられなかったのか。
その表情は苦悶に満ちている。息も荒い。
「
淡い光がメアリーを包み込んだ。
息が整う。
体力も回復したようで、彼女の動きにキレが戻った。
それに伴い、一撃一撃の速度も重さも上がったようだが、それでもなおアサシンには届かない。
「
地面の広範囲が光った。
巨大な植物が何本も出現する。
それらが全てアサシンへと襲い掛かった。
「ふむ。いくら大きくってもネ……《瞬歩》」
そこで初めてアサシンがスキルを使った。
一瞬のうちに、植物たちが根元から切り倒されていく。
場が植物たちの倒れ落ちる音で満たされた。
「なっ!?」
倒れた植物の影を利用したのだろう。
アサシンは気配を消し、メアリーの背後へと回った。
そのまま一撃で彼女の喉を掻っ切る。
血が噴き出した。
力の入らなくなった足から地面に落ちる。
根と切り離された植物と同じように、メアリーも地に寝そべり動かなくなった。
『審判! カウントを早くお願いしますっ!! ……しっかし、鮮やかっ。反撃から最後の一撃まで実に滑らかに実行されましたね。俺には途中の移動が全く見えませんでした』
『
『これで無名など、末恐ろしいですね……。剣聖が敗れる未来もありえるかもしれません』
『ずっと勝ち続けることなど不可能です。誰であろうと敗北は訪れます』
『歴史が変わる瞬間を、我々は目にする可能性も十分にあるということですね!! おおっと、ここでカウントが終わりました! 第三試合、勝者はアサシンだぁ!!!』
人気者のメアリーを破ったからか、歓声の中に罵倒が混ざる。
アサシンは歓声と罵倒を上げる観客に応える様子は見せなかったが。私を見つけると穏やかに笑い、手を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます