第74話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト5


 遅めの昼休憩をはさみ、三回戦が始まろうとしていた。


『はーい、皆さまこんにちは! ご飯はちゃんと食べましたか? 小腹が空いたからといって試合を見逃さないようにしてくださいね。では引き続いて司会解説を務めますは、おちゃらけ王子こと、セスタでぇっすっ。もう一人の解説はもちろんこの方、アペンダーテギルドマスターのルヴィリアルディリンクさん!』

『こんにちは、よろしくお願いいたします』

『はい、よろしくお願いしまっす! いやー、それにしても午前の試合は素晴らしいものでしたね。さすが栄誉ある8人ベストエイトに残った方々の戦いですよ。手に汗握るとはまさにあの事を言うのでしょう』

『毎年ほぼ同じ方が残っておりました。ですので、新しい方との戦いは新鮮です』

『ですねぇ。次の試合は、そんな新しい方々、無名のお2人が競い合ってくださいまぁす! 殴る回復職こと、メアリーさんは予選本戦ともに勝ち抜けてきましたし、二つ名でなんとなく役職は分かられると思うんですけどね~。アサシンさんは本戦から。しかも、その攻撃を見れたのはたったの2回でした。まだまだ実力は未知数ですねぇ』

『とても楽しみですね』

『どんな戦いをしてくださるのでしょうか! お2人の準備が整ったようなので、早速お呼びしたいと思います。殴る回復職、メアリーさん。一撃必殺の黒き風、アサシンさん。どうぞぉ!』


 双方の扉が開く。

 今度はアサシン側の扉も、きちんと係員が開けたようだ。


 2人がほぼ同時に観音開きの扉をくぐり抜けてくる。

 歓声が上がった。


『いやいや、アサシンさんのはやはりすごい。ここまで離れていても、ビシバシと伝わってきますね。このを間近で、しかも目の前で感じなければならない対戦者さんにはちょっと同情しちゃいますよ』

栄誉ある8人ベストエイトを馬鹿にしてはいけません。現に彼女は気にしていないようです』


「よろしくお願いいたしますね」


 ギルドマスターの言葉通り、メアリーは脅えることなく、アサシンに近づいていく。

 にこやかに手を差し出した。開戦前の握手を求めているのだろう。


 アサシンもおっかなびっくり手を握った。


 彼が私以外に不愛想なのは、単に人見知りだからではないだろうかと最近は思っている。

 言葉が通じないというのも、もちろんあるだろうが。


 握手をしたら、お互いに距離を取り始めた。


『おおっ! さすがは栄誉ある8人ベストエイト!! 臆することなく握手を求めたぁ! ……なんだろう、少し感動してしまいましたっ』

『見当違いな感動ですね。汚い涙は引っ込めなさい』

『はいっ、もう引きましたっ! さて、選手情報ですが、メアリーさんは協会の所属ですねぇ。普段は冒険者ではなく協会所属の回復師として勤務しているようですよ。彼女に会いたい場合は、十分な怪我と初穂料はつほりょうを持って行かれてくださいね』


 冒険者だろうか。観客席から野太い声が響く。


 メアリーは人気者のようだ。

 すかさず、ギルドマスターが彼らを律した。


『迷惑ですので、無理に怪我をしたり彼女を指名したりはしませんように』

『酷いと他の患者様の迷惑になりますし、教会を出禁になるので本当にやめてくださいよ! さてさて、次にアサシンさんですが、やはり謎の方ですね~。美少女お嬢様魔術師のクレアさんといつも一緒にいるという情報はあるのですが、それ以外はさぁっぱりと分かりませんでした! 他に分かったことは、違う言語を使われるということと、冒険者ギルドには最近入ったばかりでありランクは木であることのみですね』

『ええ。ギルドランクは未だ木ですが、実力は皆さまもご存知でしょう。この試合でもそれを示してくださるかと思います』

『そうですね! おおっと、すでに2人の開始位置も決まっているようですので、始めさせていただきますっ。この試合を勝ち抜き、剣聖ガーウィンと戦う栄誉を得る者はどちらとなるのでしょうか!? それでは、無名対無名、そんな未知数の試合をご覧ください! ――栄誉ある8人ベストエイト戦、第三試合、始め!!』


 始まりの合図と共に、メアリーが杖の頭の部分を地面に擦ってアサシンへ突進した。

 アサシンは動かずただそれを見ている。


 攻撃範囲内に入ったのだろう。

 メアリーが杖を振りかざした。ただの杖ではない。


 杖だ。

 アサシンに影が差す。


「食らってください。《地の鉄槌》」


 引っ張られた地面は鞭のようにしなりながら、アサシンを覆う。

 地響きと土煙が舞い上がった。


『強烈な一撃ぃ! おしとやかな外見とは裏腹な、豪快なその攻撃ははたしてアサシンさんに通じたのかぁっ!?』


 土煙が消えるまで待つ必要なない。

 アサシンが動いた。


 煙が揺れる。


 ただそれだけの変化であったのに、メアリーは対応した。

 杖を動かし、地面を盾とする。


 地面に攻撃しても意味がないことぐらい、誰だってわかるだろう。

 アサシンはその地面を足場とし、駆けあがった。

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