第73話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト4


守乙女の鎧武装


 風が霧散したかと思うと、ディオナの身が鋼鉄で守られた。

 ガーウィンの剣はそれに遮られ、大きくのけ反る。


 その隙に、ディオナはまたしても武装を変えた。


光乙女の鎧武装


 ディオナが光を纏うと、光の剣でガーウィンを突く。

 彼は慌てて剣で軌道をそらせようとするが、その剣を肩口に突き刺さった。


「なんちゅう剣だっ! ぐぅっ」


『光り輝くディオナ様! 眩しすぎて見てられませぇんっ!』

『光の剣は実体の有無を瞬時に切り替えられます。そこがこの鎧の利点ですが、欠点としてはその眩しすぎる光ですね。これは使用者の眼も眩ませ、周りがよく見えません』

『真っ白い世界で戦っているようなもの、ですかね』

『おそらくは。加えて鎧もただの光の集まりなので、攻撃を簡単に通してしまいます』


 守りを捨てた、攻撃特化の武装のようだ。

 ディオナもその覚悟のうえでガーウィンに斬りかかっている。回復薬を飲まれる前に決着をつけたいのだろう。


「《千光》!」


 鎧から光の線が発せられた。

 狙いもなくバラバラに撃たれたのは、周りが見えていないせいか。


 それでも何本かはガーウィンに向かった。


「でたらめなっ」


 光はやはり早い。

 避けきれずに、彼の身を削った。


 たまらず腰の袋に手が伸びたが、ディオナがそれを許すはずもなく。

 また光の剣がガーウィンを襲う。


「見えてないんじゃなかったのかよっ」


 それを潜り抜けるようにして避け、ディオナを切りつける。

 ガーウィンの剣にはべったりと血が付いていた。


「《千光》!」


 最初に比べて光は弱い。

 ガーウィンはバックステップで距離を稼ぐことにより、その攻撃を避けた。


 2人そろって回復薬を飲む。


『ディオナ様の輝きが、少し減ったように感じますね』

『鎧から光が発せられているということは、鎧の光を使っているのでしょう。攻撃を繰り返すことで、光が薄くなったのではないでしょうか』


 ディオナを包んでいた光が弱くなったことにより、彼女の様子も少し分かるようになった。


 腹部は赤い。

 傷は回復薬で治っているだろうが、それでも痛みと疲れは残っているだろう。

 その顔は苦悶で満ちていた。


 しかし、ガーウィンも疲れ切った表情をしている。

 肩がまだ痛むのか、腕を回していた。顔には汗が流れている。


 再び動き出したのはディオナだった。


「《千光》!」


 ガーウィンのことを捉えられたからだろう。

 光の線は数本に抑えられ、間違いなくガーウィンへと向かっていった。


 避ける。

 が、やはり攻撃を食らったようだ。

 ガーウィンは盛大に顔をしかめる。


 ディオナが間近に迫った。光の剣が振り下ろされる。

 思わず剣で遮ろうとして、その特性を思い出したのだろう。

 舌打ちをした。


「剣聖はもらったぁぁあ!!」


 光の剣に全てを注いだようだ。

 ディオナの鬼気迫る顔。肌の色。全てがよく見えた。


 だが、剣聖の名は伊達ではなかったらしい。


 ガーウィンは光の剣を遮ろうとした己の武器を即座に持ち替え、ディオナの手を突いた。

 彼女は顔をそらして致命傷は避けたが、手首と耳は大きく削られる。

 片手となって軌道がずれたディオナの剣は、ガーウィンの胸を浅く抉った。


 けれど剣聖の攻撃は終わらない。

 剣を瞬時に引くと、構える。


「《なぎ払い》!!」


 至近距離で繰り出されたそれにどれだけの威力があるのだろうか。

 それは、ディオナの体が示してくれた。


 彼女は血をまき散らし、弧を描きならが宙を舞う。

 光の剣は輝きを失っていた。


 落下し、地面に叩きつけられても動かない。

 ガーウィンは回復薬を飲んで、未だ剣を構え続ける。


『審判がカウントをとっております! ディオナ様、動かない!! 出血もひどい! 魅惑の体が傷だらけだっ! 剣聖ガーウィン、油断なく見つめている!』

『あの出血、怪我の度合いから見ても、起き上がるのに時間がかかります。ガーウィンさんがそれを待つことはないでしょうから、一撃で彼を倒せる技を回復直後に出せぬ限り無理でしょう』

『無情にも時間が過ぎていくっ! おおっと、ここで、ここでぇ! カウントが終わってしまいました! 勝者は、剣聖ガーウィンだぁぁぁあ!! 前大会優勝者の実力は間違いなかったぁ!!』


 会場が歓声で沸く。

 ガーウィンはそれに笑顔で応えた。

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