第72話 天才と武闘大会 五日目・ベストエイト3


 次の戦いは、ガーウィン対ディオナであった。


『早くも大本命だいほんめいも大本命!! 前大会優勝者の剣聖ガーウィンと、前大会でも栄誉ある8人ベストエイトに入っていた、魅惑の魔剣士ディオナ!! この戦いを見ずに、何を見る!』

『前大会では、2人が対峙することはありませんでした』

『ええ、ええ! とても貴重な対戦です! アサシンさんの実力はまだまだ未知数ですが、現状では前衛の1位と2位の戦いと言っても過言ではないでしょう!! どのような死闘を繰り広げてくれるのか、見ものですね! それでは入場していただきましょう。剣聖ガーウィン様、魔剣士ディオナ様、どうぞ!』


 扉が開き、2人の姿が見えた。

 ディオナは相変わらず、肌色が多い。


 歓声の中には、そんなディオナの服装に興奮している者もいるようだ。


『いやぁ、ディオナ様のお姿は何度拝見してもイイっ! ナイスボディ!! ああ、生きててよかったぁ!!!』


『セスタ、縛られたいですか?』


『……あ。いえ、すみません。少し取り乱しました。縛るのは勘弁してください。痛いっす、あれ』

『そうですか。ディオナさんの服装にはきちんと理由があります。ディオナさんを初めて見るという方はそこを。ディオナさんの戦い方を知っている方は、武装の新たな活用方法などに注目されると良いでしょう』


「相変わらず目のやり場に困る服装だな」

「これが一番楽なんだよ。……照れなど捨てな。剣聖の名はアタシがもらう」

「簡単にはやれんなぁ」


 2人は力強く握手をして別れる。

 もうすでに戦いは始まっているようだ。


『おお、闘志も十分ですね! これは史上最高の熱いバトルとなるのではないでしょうかぁ!』

『明確に片方が強いとは言えません。どちらが勝ってもおかしくないでしょう』

『はい! おおっと、位置に着いたようですね! 始めさせていただきます。では皆さま、括目して見よ!!――栄誉ある8人ベストエイト戦、第二試合、始め!!』


 歓声が場を満たす。

 2人は同時に動き出した。


「武装される前に倒せばいいんだろ? 《衝刃斬》」

風乙女の鎧武装


 ガーウィンが大きな剣から、衝撃波を飛ばす。

 加えて己もディオナへと走り寄った。


 だがそれは、ディオナから発せられる風によって阻まれる。


「ちっ、そんな簡単じゃないか」


 ガーウィンを後退させた風が立ち消えると、そこからは、肌色から緑色へと変色したディオナが出てきた。


『おおっと! 緑の甲冑! これは風乙女ですね!!』

『ええ、おそらくは。速度上昇と、風の障壁が特徴です』


 あれは魔力だろうか。

 ディオナは薄緑のよろいを身に着けていた。


 風の流れが見える。おそらく、あの鎧は風で出来ているのだろう。


『これがディオナさんが普段から布や鎧を纏まとわない理由です。魔力による防具生成。魔剣士と呼ばれる所以ゆえんでもあります』


 ディオナが剣を振るう。

 風の刃がガーウィンへと向かった。


 それを彼は簡単に払いのける。そしてまた、彼女に迫った。


「肌色の方が色っぽくて好きだったぜ?」

「じゃああんたを裸にひん剥いてやるよっ」


 剣と剣がぶつかり合う。


 筋肉の量で言えば、ディオナが劣勢を強いられると思ったが。

 何度も刃が交わろうと、どちらかが押し負けるということはなかった。


「《千剣》!」


 斬りかかる合間、ディオナの鎧から魔力が抜けたと思うと、それらは剣の形となってガーウィンに斬りかかる。


『剣聖ガーウィン、さすがの彼も、同時に迫りくる無数の剣には対処できないかっ!?』


 何本かの剣が彼に傷をつけた。

 けれどもまだ余裕の顔をしている。


「軽いな。風だからか? 《なぎ払い》」

「ぐっ!」


 ただ剣を横に払っただけだというのに、それは風の剣をいとも容易く消し去った。

 加えて、ディオナにもダメージを与えたようだ。腹部を抑えてうめいている。


『最初に強烈な一撃を食らったのは、ディオナ様だっ! ガーウィン様の得意技、なぎ払いが決まってしまったようです!!』

『初動も少なく、広範囲に効果があることでも使い勝手が良いと前に言っておりました』


 この好機を逃すはずもなく。

 ガーウィンは剣を走らせた。

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