第69話 天才と武闘大会 四日目・ベストエイト
係員に呼ばれ、私を含めた
アサシンにとっては再度の入場だ。
ライトにガンガンと照らされて眩しい。
ぎこちないながらも、曲も流れ始めた。
会場が盛り上がるに違いない状況なのだろうが、アサシンの存在で歓声もそこそこだ。
――威圧を抑える指輪を彼に渡してもいいんだけれど。
そんなことをしても恐怖の矛先が変わるだけで、根本的な解決にはならない。
それでも彼だけに嫌われ役を背負わせるのはどうかと思い、話しかける。
「アサシン、平気かしら?」
「うん? ボクなら大丈夫だヨ。それに、意外と皆慣れてきたみたいだしネ」
ほら、と指さされた先には確かに笑顔でこちらに手を振っている人たちがちらほらと居た。
鑑定をしてみても特に強いという訳でもなく、普通と変わらない。
「ネ? こんなこと、ここに出なければ分からなかったヨ。だからクレアには感謝。ありがとネ」
「アサシンの人の良さに気づいてくれたのだわ」
二人で手を振ると、彼らは嬉しそうにもっと手を振った。
こちらとしても無性に嬉しい。
「お、あいつらは気に当てられても平気になったか。この順応の早さなら冒険者で、上に行けてたかもな」
話しかけてきたのはガーウィンだった。自然体のまま、アサシンの隣に立っている。
「よう、クレア。初日ぶりだな。んで、こいつがあの時言っていた面白い気のやつか?」
彼が裏表を感じさせない笑顔で、挨拶をしてきた。
もちろん知った仲なので、挨拶を返す。
「こんばんは、ガーウィンさん。初日ぶりね。そうよ、彼はアサシン」
「アサシン、俺はガーウィンだ。
ガーウィンの差し出した手をアサシンは握り返すものの、言われた意味が分からないからだろうか。少し困惑していた。
「ああ、ごめんなさい。アサシンは言葉が分からないの。通訳するから少し待ってね」
アサシンにガーウィンの言葉を伝える。
「ああ、よろしくネ」
彼は簡素に一言だけ言った。
「挨拶自体は良いことだが、今ここでやらなくてもいいだろう。ギルドマスターが来られる。動かず離さずじっとしていろ」
「ったく、相変わらずだな。この
ガーウィンの一言に、エルフ様がお綺麗な顔を盛大に崩して、睨んだ。
苦言の一言や二言続きそうだったが、自分が言った手前騒げなかったのだろう。
視線に殺傷能力があれば刺し殺せそうなほどに睨んで、苦言を言うのを耐えていた。
一方のガーウィンは、涼しそうな顔をしている。
私はあの視線にさらされたら死ぬこと間違いなしなので、アサシンに静かにすることを伝えて口を閉じた。
ほどなくして、エルフ様のおっしゃる通りに、ギルドマスターが現れた。
その美貌に、またも観客席から感嘆の声が上がる。
「アペンダーテギルドマスター、ルヴィリアルディリンクです。それではこれより、本戦を勝ち進み、
簡易な特設ステージに乗ったギルドマスターが、朗々と読み上げる。
始まる前に説明を簡単には受けていたが、それでも少し緊張した。
「前大会優勝者、剣聖ガーウィン」
まず最初にガーウィンが呼ばれた。
剣聖という二つ名を持っていたとは、驚きだ。
彼が指定の位置に着くと、次々と名が呼ばれる。
「魅惑の魔剣士、ディオナ。西の大魔女、リーハラウシェ。異端の黒魔女、シルディア。聖賢、ルカウィズルルディ」
二つ名持ちから呼ばれたのだろう。
彼らが一列に並んでいく。
「次は今大会初出場の者たちです。無名の者たちばかりだったので、二つ名は僭越ながら仮名をわがギルド職員が付けさせていただきました。では、読みます。――殴る回復職、メアリー。美少女お嬢様魔術師、クレア・ジーニアス。一撃必殺の黒き風、アサシン」
一瞬、自分たちが呼ばれたのか分からなかった。
――なんだ、そのはっちゃけた二つ名は。
その二つ名がギルドマスターの口から出てくるため、破壊力は倍増だ。
ギルドマスターも、そんなものを読まされると思っていなかったのだろう。片方の眉が上がっていた。
しばし呆然としていたら、“殴る回復職”と紹介されていた女性がぎこちなく列に加わった。
そこでハッとする。
――並ばなければ終わらない。
私たちも早急に、しかし見苦しくない速度で並んだ。
「誰が優勝してもおかしくないほどに、皆さんの力は強いです。研鑽を重ねたその技術、いかんなく発揮してください」
ギルドマスターがそう締めくくることで、なんとか解散することが出来たのだった。
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