第64話 天才と武闘大会 三日目・本戦2
爆風で地面に叩きつけられるも、素早く立ち上がる。
この試合の形式上、地面に横になっていたら例え戦闘可能であっても負けとなるらしいからだ。
砂と泥が爆風で巻きあがっていた。
手早く回復薬を飲む。
まさか、私が怪我を負うなんて。……いや、この傲慢さが原因なのだ。粛々と受け止めよう。
砂嵐のただ中に居てさえ、先を見通せる私の眼は、ペグを正確に捉える。
側に寄り、鑑定を行った。
死んでいる。
――ああ、だから嫌だったのだ。天狗でいたかったのだ。本気で戦えば、耐えられないから。殺してしまうから。
彼の巨体はバラバラになっていた。
フィーが見ていたら、いや、フィーでなくても常人なら目をそむけたくなるような姿である。
蘇生用の回復薬は、品質と錬金要素、そして素材が足りないため作れていない。
薬による蘇生は無理であった。
杖を強く握る。
「
広範囲を指定し、私たちに被害が及ばない場所で砂埃を上げさせた。
これでもう少し周りからの目を隠せるだろう。
杖を掲げる。
魔力を丁寧に、丁寧に杖へと送った。
手持ちで作れる最高品質の杖だが、やはり品質も錬金要素も足りない。
だから、失敗する可能性もある。
けれど、やらないという選択肢はなかった。
これは己の傲慢さゆえに引き起こした事態。――グデルデを笑えないな。
魔力を強く、濃く込め、天高く掲げた。
詠唱をゆっくりと確実に唱える。
「
少々薄暗い竜巻の中、杖とペグが金色に光った。
粒子が空から降り注ぎ、包み込む。
消し飛んでいた部位が粒子によって模かたどられ、そのまま血肉となった。
最後に暖かい光がペグを照らす。
そこでようやく、彼の呼吸が再開した。
顔色も良い。
しばらくして惜しむように光は消えていき、粒子も霧散した。
それを見届けてから竜巻を解除し、杖を地面に置いて静かに祈る。
「
私から空へ、光が立ち昇った。
竜巻によって舞い上がった砂が下りてくる。
観客席には結界が張ってあるので、砂埃による被害はないだろう。
視界がひらけるまで、私はずっと祈り続けた。
「勝者、クレア・ジーニアス!!」
審判の声を聴き、そっと目を開けた。
そこで歓声と名を呼ぶ声が耳に入ってくる。
係員がペグに駆け寄った。
状態を確認し、問題ないと判断したのだろう。気付け薬を無理やり飲ませ、意識を覚醒させていた。
問題なく息をして喋っているペグを見て、安堵する。
でも状態を訊くほどに厚顔ではないため、そのまま退場することを選んだ。
「クレア」
掠れた声が呼び止める。
複数人の手を借りて、ペグが立っていた。
「強いな、クレア。良い経験になった。ありがとうな」
「いえ、多くを学んだのは私の方よ。あなたと戦えてよかったわ」
開戦前に握手を求められたと同じように、手を差し出された。
ペグはふらついている。
支える意味も込めて、手を取った。
歓声と拍手が巻き起こる。
はやし立てるように、祝福するように、口笛が響いた。
――やめてほしい。美談にしないで。お願いだから。
耐えられなくて、すぐさま退出用の通路へと向かう。
賛美の声が、今はむなしい。
ペグの手はあまりにも冷たくって。
それが殺したことを訴えていて。
――何が友人のためだ。カッコつけちゃってさ。エルフ様の言う通りだった。全知全能になった気分の、ただの愚か者だ。
人が死んでしまう恐怖を、やっと私は思い出した。
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