第59話 天才と武闘大会 二日目・本戦初日1
イルマに一言謝って、フィーの持ってきたお弁当を食べることにする。
イルマは可愛らしい見た目に反して、きちんと大人な性格をしていたようだ。
気にしないでいいよ、と言ってくれた。マジ天使。
「クレア、どう? 美味しい?」
キラキラの瞳で感想を聞いてくる、フィー。
お弁当の中身は手軽に摘まめて、腹持ちの良いものであった。味も濃く、疲れた体に心地よい。
「ええ、とっても美味しいわよ」
それを聞くや否や、満面の笑みになった。可愛い。
頭を撫でる。うさ耳がピコピコと動いた。まるでフィーの気持ちを表しているかのようである。
「お、食べたらぜひ、ぼくちんの羽も触って? クレアちゃん、ぼくちんの羽好きでしょ」
「あら! いいの? ありがとう、イルマ」
友人とはここまでサービスが良いものなのか。これほどまでに癒されて、負ける気がしない。
歓声が上がる。ついに十一戦目の勝者が決まったようだ。
「ありがとう、二人とも。とても元気になったわ。それじゃあ行ってくるわね」
立ち上がる。
もう一度、フィーの頭を撫で、イルマの羽をもふらせてもらった。
「クレア……怪我しないでね?」
「クレアちゃん、頑張って!」
可愛らしい友人たちに一つ頷くと、観音開きの扉をくぐる。
途端に「「クレア! クレア!!」」と観客から声援を貰った。
そう言えば、グデルデと初めて会った時には自分で名乗りを上げ、先ほども私の名は大勢の人の前でさらされた。こうして覚えられるのも無理はないのかもしれない。
「くっくっく、お前を倒せば、これはオレ様の名前に代わるんだぜ?」
クレアコールが羨ましいのだろうか。
別の扉から入ってきたグデルデが、厭味ったらしく言う。
だったら名を名乗ればいいのに。変なところで臆病者だな。
「男が近くに居なくって、怖気づいたのか? 安心しろよ、すぐに送ってやる」
剣をスラリと抜いた。
待ちきれないとばかりに、それを撫でる。
「あっ」
「お? どうした、何か忘れもんかぁ? 残念だったな! もう戻れねえよ」
そう言えば、フィーにエーゲルについて聞くのを忘れていた。
領主だなんて知らない。ドッキリにもほどがある。
領主と言えばこの地域で一番偉い貴族であろう。そんな権力者に対して、これまでの態度は無礼に当たらないだろうか?
「己の準備不足を呪うんだな! まあ例え準備万端だったにしてもよぉ、オレには勝てなかっただろうがな!!」
それにしても領主であるエーゲルよりも偉いと思われるフィーは、一体どんな存在なのだろうか。
詮索したら絶対に藪蛇になるだろうからしないが、やっぱり少し気になってしまう。
「――って、聞けよッ!!」
「へ? あら、ごめんなさい。言語にもなっていないうめき声だったから。まさか、私へ話しかけているとは思わなくって。……申し訳ないのだけれど、もう一度理解できる言葉で言ってくださる?」
「お前! ガキのくせに嘗めた口ばかりききやがって!! 殺す、殺すっ!!」
審判の開始の声が響いた。
グデルデが素早く動く。大口を叩くだけのことはあるのだろう。なかなかに早い。
だけどそれだけだ。迫りくる剣を杖で受け流す。
会場を歩き回った際に、私は考えた。
どうやってこいつの心を盛大に折ってやろうかと。
ただ単純に勝つことは可能だ。
赤子の手をひねるよりも楽だと言っても過言ではない。手加減や良心が痛まないという点でも。
けれど、それでは足りないのだ。
二人のエルフ様にコテンパンにやっつけるようにお願いされてしまったし、私もそうしなければ気が済まない。
さらに、こういった輩は何度も繰り返す。一度徹底的にお灸をすえるべきだと思うのだ。
――という訳で、考えた作戦がコレである。
「クソ、クソぉ! 何で当んねんだよッ」
杖でひたすらに、弾く、流す、受け止める。
魔術師で、女で、さらに言えば今まで嘗めていた相手だ。自身の攻撃を虫か何かのように払われては、さすがに傷つくだろう。しかも片手で。
グデルデがバックステップで距離を取り、スキルを発動するためのタメをする。
無防備すぎるその姿だが、待ってあげた。何て私は優しいんでしょうか。
「《火炎斬》!!」
炎の渦を纏った剣が迫りくる。
杖で受け止めた。
難なく止められてグデルデは目を見開いたが、すぐさま笑う。
杖は金属製だ。加えて、杖の持ち手と剣の刃はすぐ近くである。火の粉が手に当たった。
「くっくっく、熱いだろう? 泣いてすがったら、消してやってもいいぜ?」
楽観的すぎる思考に、笑いさえ出ない。本当に脳みそは詰まっているのだろうか。
目の前で盛大にため息を吐いたからだろう。グデルデはいきり立った。
「バカにするなっ、オレを、バカにするなぁぁあ!!」
斧を振り下ろすかのように剣を扱うグデルデ。
胴ががら空きだ。
しかし、反撃はしない。ただそれを、受け止めた。
衝撃も大して感じない。
グデルデの体勢が崩れた。これも隙だ。
たたらを踏みながらも、また愚直に振り下ろす。なぜ学習しないのか。
もう一度盛大にため息を吐いた。
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