第57話 天才と武闘大会 二日目・本戦開会1
それからしばらくすると、全ての組が戦い終わったようだった。
『トーナメントの発表を行う。勝ち進んだ者たちは、試合会場に集まるように。繰り返す。勝ち進んだ者たちは、試合会場に集まるように』
アナウンスが風魔術で増幅され、街全体へと響き渡った。
観覧室にいた者たちが、ぞろぞろと部屋を後にしていく。
「お、行くか」
「そうだな」
私たちも向かうことにした。
どこへ行っているのかと聞くと、先ほどまで見下ろしていた場所――フィールド――で、宣誓とトーナメントの発表が行われるらしい。
絶対参加という訳ではないが、そこでしか対戦相手と時間を知ることができないため、のっぴきならない事情でもない限り参加するのが普通だという。
そう時間もかからずに、目的の場所へ着いた。
ギルドカードを板にかざして、中へと入る。やはり広い。
少々傾いた太陽が、私たちを斜めから照らした。
多くがふるい落とされたと言っても、やはりまだまだ人はいる。
だいたい50人ぐらいであろうか。広い会場が、狭く感じるくらいには多い。
簡易な特設ステージに、美貌の麗人が姿を現した。観客席から黄色い悲鳴が飛び交う。
『聞こえますか? それでは始めさせていただきます。これより、第39回武闘大会本戦の開会式を執り行います。司会を務めさせていただきますは、アペンダーテギルドマスター、ルヴィリアルディリンクです。開会にあたりまして、領主さまであるエーゲジェトル・マクウィズ・アペンダーテ様から一言頂戴いたします』
淡々と司会をこなしたギルドマスターは、声を増幅させる魔道具であろうマイクを後ろに控えていた人に手渡す。
進み出てきたのは――エーゲルだった。
『ああ。まずは皆、予選突破おめでとう。とても素晴らしい戦いであった。日々の鍛錬の賜物であろう。力強い剣術、優美な魔術、とっさの機転と身のこなし。一朝一夕で身につくものではない。まこと素晴らしい。本戦でも期待している。そして予選を通過できなかった者たちも、お疲れさまである。嘆くことはない。武を磨き、上を目指しなさい。挑み続ける限り、この武闘大会は君たちを受け入れよう。この大会は冒険者たちや武を嗜む者たちが、切磋琢磨するために開かれたものだ。未熟でもよい。未熟がよい。強者たちと競うことで、技を盗め。自らの力とせよ。種族の特性を知れ、種族も超えて武を競え。その先に名誉と栄光があるのだ。いつの日か君たちが、地下ダンジョンを踏破する、超越者となれるよう、私は助力を惜しむつもりはない。さて、長くなったが、以上を持って私の挨拶とする。君たちの奮迅、楽しみにしているぞ』
エーゲルは領主の威厳を振りまきながら挨拶を行った。
権力者のオーラを纏っている彼は、とてもカッコいい。だが、いつもの優しい紳士の顔を知っていると、どうしても違和感を感じる。
「……ねえ、今のが領主さま?」
「ん? ああ、そう言ってたじゃねえか。まあ、領主だなんてそうそう会えねえし、無理もないがな」
――いえ、ほぼ毎日顔を合わせておりました。
だからこそ困惑しているのだが。
『ありがとうございます。続いて、選手宣誓を行います。宣誓は前大会優勝者、ガーウィン』
「おう!」
エーゲルはギルドマスターにマイクを返すと、後ろに下がった。
マイクはギルドマスターから、ガーウィンへと渡る。
『宣誓! 我々は今まで培ってきた武と経験と誇りにかけて、正々堂々と戦うことを誓う。……誇りを忘れた者は、死よりも恐ろしい仕置きが待っていると心せよ!! 参加者代表、ガーウィン』
観客席から盛大な拍手と歓声がそそがれる。
ガーウィンは一礼すると、マイクをギルドマスターに返し、参加者の中へ戻っていった。
『以上を持ちまして、第39回武闘大会本戦の開会式を閉幕します。最後に、トーナメントの発表を行いますので、少々お待ちを』
係員の一人が、ギルドマスターに紙を手渡す。
彼はそれに目を通すと、読み上げた。
『今から読み上げます。自分の名が呼ばれても、静かに最後まで聞いてください。それでは第一戦は――』
知らない人たちの名が読まれていく。
名が読まれるごとに、会場にいる者たちの瞳に闘志が宿った。
私はいつ呼ばれるのだろうか。
『第十二戦、クレア・ジーニアス対グデルデ』
思わずピクリと体が動いてしまった。
私はグデルデという人と当たるらしい。
静かに気合を入れていると、突然男の高笑いが響く。
――まだギルドマスターの読み上げが終わっていないというのに、である。
「クレア・ジーニアス! 初戦で当たるとは、お前も運がないなぁ!! だが、オレにとっては都合がいい! この前の恨み、晴らさせてもらうぜ!!!」
声の主は、露店市で勘違いの末に喧嘩を吹っかけてきた、頭の弱いあの男であった。
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