第45話 天才と武闘大会 前日1


 あふれる人込みをかき分けて、冒険者ギルドへ向かう。

 ここ数日は調合で宿に引きこもっていたため、これほど人が多くなっているとは知らなかった。

 小さな体を生かして人の間を縫って進む。ようやく目的の場所に着いた。


 目的の場所、冒険者ギルドも人でいっぱいだった。


 カウンターなんて長蛇の列だ。

 みんな気が立っているのだろう。横入りしただの、肩が当たっただのと小さなもめ事も多い。


 誰に聞こうかと悩んでいると、小さく「クレア?」と名前を呼ばれた気がした。


 どこから聞こえたのかとキョロキョロすると、視界を埋め尽くすように肌色が飛び込んだ。


「クレア……だよな?」


 けしからん防具を身に着けていた、ディアナだった。

 今日も今日とて、けしからん格好をしている。相変わらず絶好調だな、ありがとうございます。


「あら、ディアナさん。お久しぶりです」


 私が普通にそう言うと、彼女は苦虫を何匹も噛み潰したような顔をして、何事かを口ごもり、そして諦めたかのように飲み込んだ。


「ああ……久しぶり」


「そうだ、ディアナさん。この後時間あるかしら? ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」

「ん、どうした? 構わないが」

「ありがとう。ああ、そこの席が空いたわね。奢るから、そこで座って聞いてくれないかしら」


 ギルドに併設されている軽食屋の席へ移動する。

 店員にテーブルの上を片付けてもらって、同時に注文もした。


「私には、ココオレをちょうだい」

「アタシはエールだ」

「はーい!」


 店員が軽やかに去っていく。それを見送ってから、ディアナに質問をした。


「武闘大会に必要なものとか、持っていけるものとかを教えてほしいの」

「武闘大会のって……明日だぞ!?」


 ディアナが盛大に驚く。


「聞くの忘れてて……知っているかしら?」

「もちろん知っているが……。はぁ。いや、そうか。……必要なものはギルドカードだ。対戦前に毎回カードと魔力を照らし合わせて本人確認をするから、絶対に忘れるな」


 すぐに飲み物が運ばれてきた。ディアナはエールをグイグイと飲む。


「――ぷはぁ! んで、持っていけるものは、武器、盾、装飾品と回復薬のみだ。攻撃用魔道具は許可されていない。使うと即失格だから、気をつけろよ」


 危ない。攻撃用アイテムを使うところだった。

 神妙にうなづく。


「ルールや勝利条件は知っているか?」

「ごめんなさい。知らないわ」

「だよな。……初日は人数を減らすために、数人で一気に戦う。大体5、6人だな。それで1、2人になったら終わり。それを数回繰り返し、トーナメントを組めるまで人数を減らすんだ」

「初日って……何日も続くものだったのね」


 てっきり一日で終わるものだと考えていた。


「どんだけの人数が参加すると思ってる。期間は良く変動するが、少なくとも一日じゃ終わらないぞ」


 私の認識は甘かったようだ。

 これは持久戦になるかもしれない。


「基本的な勝利条件は、最後まで立ち続けられることだ。一定時間地面に横たわっていたら負けになるから、休憩するにしても横にはなるな。座るのもダメだという審判もいるから気をつけろ」

「わかったわ」

「一度に持ち込める回復薬の量は決まっていない。だが、何日もかかることを考えると一度に使いすぎるのは良くない。それに……この時期だともう回復薬は品切れしていることだろう。あっても質の悪いものばかりだ」


 ディアナは気づかわしげに見て、少しぐらいなら分けてやれるが、と言ってくれた。


「ありがとう。でも大丈夫よ。自分で作れるから」

「なっ、クレアは薬師だったのか!?」

「んー、正確に言えば錬金術師だけれど。まあ、そんな感じよ」

「そうか。だが薬になる草も少なくなっているはずだ。……大丈夫か?」

「何とかなると思う。ありがとう」

「ならいいが……」


 ディアナは照れてそっぽを向く。可愛らしい女性だ。


 ココオレを飲む。甘く優しい味が口いっぱいに広がった。


 ――これはのんびりと会場見学をする暇はなさそうだ。


 この後の予定と、必要な素材を素早く考えた。

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