第46話 天才と武闘大会 前日2


 ディアナと別れ、草屋とダンジョン産のものを専門に取り扱っている店に急ぐ。


 回復薬のほかに私が作りたいもの。それは素材袋だ。

 可能ならば重量数量無制限がいいのだが、そこまでのものを作れるほどの素材は売っていないだろう。


 だから、大会限定で使える物で良い。

 それをアサシンの分も含めて作ろうと考えていた。


 まず最初に草屋に着く。

 通い詰めていたおかげで、どこに何があるのか把握していた。

 欲しいものを手早く取り、会計を済ませる。


 次はダンジョン産専門店だ。希望のものが売っているといいのだが。

 店内は観光客でにぎわっていた。


「……素材の価値も分からず、さらに使う気がないのなら買わないでほしいのだけど」


 生産職の本音が思わず出てしまう。

 幸いにも誰も聞いていなかったようだ。店内は相変わらず騒がしいまま。


 並んである商品は人が壁となって見えなかったので、店員に頼ることにした。


「ねえ、申し訳ないのだけど、モンスターの皮を数枚見繕ってきてくれないかしら。品質は普通より少し良い程度で」


 店員は子どもだからと扱いを下に見たりせずに、丁寧に対応してくれる。


「こちらはいかがでしょうか?」

「ああ、良いわね。……この三枚をいただくわ」

「ありがとうございます」


 これで素材は集まった。店を後にして宿へ急ぐ。


 帰ってすぐに調合すれば、夕食までにはとりあえずの準備は終わるだろうと、息を吐いた。

 ――その時だった。


「おい、クレア・ジーニアス!!」


 男の声がする。しかも聞いたことのある声だ。


 そう言えば、宿を出る時に認識阻害魔術を使うのを忘れてた。

 今日こそ忘れてはいけなかったのに。


 無視したかったが、肩をつかまれる。振り向かざるを得ない。


「……何かしら?」

「おうおう、お前一人か? 男はビビッて逃げ出したのか、んん?」


 男が小ばかにしたような顔を近づけてくる。

 こいつは、私とアサシンがギルドを血の海に染めたと勘違いしている奴だった。


「逃げてないわよ。それで? 誤解は解けていないのかしら? あの後ギルドには行ったのでしょう?」

「解けるどころか確信したね。お前らは犯人だ。――だからオレが更生させてやるよ」


 このにやけ顔をぶん殴りたくなる。適当なことを言いやがって。


「ん? それにしても今になって買い物かぁ? 買い忘れの無いようにしておけよ? オレと当たるまでは負けてほしくないからなぁ!」


 そういえば、今ここで自重するのだった。

 思わず笑う。


「そうね。でもあなたも気をつけなさい? 買い忘れていたら大変だもの。……まぁ、今日はに一日中いるみたいだから、忘れていても買えないでしょうけどね?」


 念のためにと持って来ていた杖を軽やかに振った。

 男の体がピタリと固まる。まるで彫像のようだ。


「なっ!! くっそ。なんだこれ!!」


 体を動かそうと必死になっているのだろう。だが出来るはずもなかった。


「それじゃあね。明日は楽しみにしているわ」


 ちょっとした仕返しが出来て、すっきりした。


 男にかけたのは、簡単な石化魔法だ。

 魔法という通り、魔術に比べて大した効力はない。

 運が良ければ親切な人が解いてくれるだろうし、もしそのままでも夜には効果も切れるだろう。


 ――実に明日が楽しみである。


 晴れやかな笑顔でスキップしていたら、年配の女性に笑われてしまった。

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