第44話 天才と調合三昧


 薬学ギルドのお兄さんに教えてもらった通りに、隣の建物に入る。

 そこには部屋いっぱいに草が売ってあった。


 ――宝の山か!?


 ウキウキ気分で一つ一つ鑑定する。どれも品質は悪いが、見たことのないものが多い。


 ――これは買わねば、素材たちに失礼だ。


 可能であれば、見たことのない素材を全て購入したいのだが。資金も素材袋の容量も有限なので、泣く泣く取捨選択させてもらう。


「あら、あなたは珍しいものなのね。可愛いわ。あ、あなたはちょうど私の作りたいものの素材になりうる可能性を秘めているじゃない! 良いわ! うちの子になりなさい!!」


 全てを見て回るには膨大な時間がかかるだろうが、関係なかった。居るだけで楽しい場所など、そうそうない。

 時間など忘れて、鑑定し続けた。



 閉店まで居座って、とうとう店員に時間だからと追い出された。うむ。明日も来よう。


 空はもう暗い。

 昼食も忘れて楽しんでいたため、お腹が激しく空腹を訴えた。

 魔道具、魔導書ギルドにも行きたかったが、仕方がない。これも明日だ。夕飯を食べるためにも宿へ戻ろう。

 

 予定通りとはいかなかったが、とても良い場所に巡り合うことが出来たので、気分が良かった。

 オレンジ色の灯が素敵な出会いを祝福してくれているみたいだ。そんな幻想的な町を、私は軽い足取りで通り抜けた。


 次の日もその次の日も、草屋に通う。

 もちろん、その合間に魔道具、魔導書ギルドへ行ってギルドカードは作ってもらった。17歳かどうかで軽くもめたが、いつものことと言えばいつものことだろう。


 ある程度買い物をしたら、宿に戻って調合だ。

 様々な組み合わせを試し、効能を理解し、アイテムを作る。

 知らない素材の性格を知るにはこれが一番手っ取り早いのだ。


 調合で得た結果は、作った紙を束ねたお手製ノートに書き記していく。こうすれば忘れない。

 そして、作成したものはエーゲルたちに売るか、薬学ギルドへもって行って登録した。


 そんな調合三昧の日々を過ごしていたら、あっという間に武闘大会の前日になっていた。


「いいですか、フィー様。今日は絶対に外に出てはいけませんよ」

「わかってる。冒険者がきり立っているからでしょ」

「はい、明日まで我慢しててくださいね」


 朝食後、オルザがフィーに言い聞かせている。これもいつものことだ。

 フィーは窓から外を眺めていた。


「クレアは今日はどうするの?」

「んー、そうね。どうしようかしら?」


 調合してもいいし、舞台となる会場を見に行ってもいいかもしれない。


「……貴様、明日が本番だというのに変わらんな」

「そうねぇ。緊張するようなことでもないもの。私が優勝で、間違いないわ」

「言い切ったな」

「私、天才だもの」


 どや顔をするも、オルザは聞き飽きたかのように流す。


「そうかよ。……で、余裕なのはいいが、持っていくものとかは準備できているのか?」

「準備? 何か用意するものとかあるのかしら?」

「いや、俺に聞くな! 普通、装備品の規定や回復薬の上限とかあるだろうが!!」

「そうなの? 知らなかったわ」


「貴様……マジか……」


 オルザが脱力した。


「知らないのなら、聞いてくればいいのよね。予定は決まったわ! 冒険者ギルドへ行ってくる」

「さっさと行ってこい! んで、買って来い!!」


 オルザに追い出されて宿を出る。

 活気にあふれる町が、なんだかとても楽しく見えた。

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